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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

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「思い出の向こう側<第3回>」(小石薫)

第2回はこちら。


5
 次の日学校に行くと、楓は欠席だった。担任から、昨夜楓が不審者に殴られたという話があると、教室中が騒然とした。

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5
 次の日学校に行くと、楓は欠席だった。担任から、昨夜楓が不審者に殴られたという話があると、教室中が騒然とした。
 同じクラスから2人も襲われる人が出たせいで、教室中が重い空気だった。
「犯人、同じなのかな」
 リズは、廊下で美澄に聞いてみた。リズの眼に、体の大きくて落ち着いて見える美澄が頼もしく映った。
「どうだろうな。ただ康太が通り魔だって言うなら、もしかしたら別かもしれない」
 美澄は壁に背中を押しつけて天井を見つめる。
「どうゆうこと?」
「あいつ。楓だけど、あいつは結構敵が多いからさ」
 美澄はリズの方を見ずに答えた。リズは、昨日の放課後の事を思い出した。事情は解らないけれど、もしかしたら楓の周りでは、ああいう事が多いのかもしれない。
「そう、なんだ」
「あいつも、問題あるからな」
 美澄は勢いをつけて壁から離れると、教室に向かって歩き出した。
「俺から聞いたって言うなよ」
「うん」
 リズも、美澄について教室に入った。
 ホームルームで、できるだけ複数人で下校と登校をするように担任が呼びかけた。リズは翠と秀子とは家の方向が違うので、たまたま同じ方向の美澄と帰ることになった。リズは、帰りながら楓のことについて聞いてみることにした。聞いていい気分になる話ではないことくらいは解っていたが、胸のモヤモヤは晴らしてしまいたい。
「敵が多いって言ってたけど」
 リズが切り出すと、美澄は「あぁ」とだけ言って黙ってしまった。踏切に差し掛かるまで、沈黙が続いた。学校とリズの家の、ちょうど半分の位置だ。
「念押して言うけど、俺から聞いたって言うなよ?」
 踏切を渡り切ったとき、美澄は学校の廊下で言ったことを繰り返した。
「わかってる」
 美澄はリズの返事を聞くと、一度深呼吸した。
「あいつな、少し、男女関係にだらしないところがある」
「だらしない?」
「相手がたくさんいる」
 リズは、少しショックだった。学級委員長としての楓に、清潔なイメージを抱いていた。
「だから、結構周りの奴らから恨まれてたりするんだよ。やったのは、だから案外近くの」
「近くって、学校に犯人がいるかも知れないってことっ?」
 美澄の続きを引き受けて、リズは思わず大声になった。一昨日の夜に見た光景が蘇る。あんな乱暴をする人が、同じ学校の仲間の誰かだなんて思いたくない。けれど同時に、昨日の楓と有紀の口論も脳裏に浮かんできた。
――だめだ。康太と楓を混同してる。
「まぁ、落ちつけよ」
 リズは一度立ち止まって深くため息をついた。少し頭の中が騒がしすぎる。
「ごめん。少し混乱して」
「変な話したな。悪い」
 美澄も立ち止まって、リズを心配そうに見やった。
「大丈夫。あ、そうだ。家、もう近くだから」
 リズは笑顔を作って、少し歩いた先の曲がり角を指差した。
「そっか」
 美澄は今来た道を引き返すように歩きだした。リズを送るのに、自分の家を通り越してきたらしい。
「リズ、さっきのは俺が思ってるだけだから、気にすんなよ」
 別れ際の美澄の言葉にお辞儀で返して、リズは家に向かって歩いた。それから、美澄の話と康太の事件を切り離そうと努めた。
――美澄が言ってたのは、楓だから、犯人が学校にいるかも知れないということだ。楓を殴った人は、もう少し優しかったかもしれない。
 そこまで考えて、リズは自分の考えていることが馬鹿らしくなった。
――優しい暴力ってなに。
 今はとにかく、早く家に帰りたかった。
6
 家のそばに、見覚えのあるグレーのセダンが停まっているのが見えて、リズは、不安になった。
 リズが家に入ると、リビングでテランスと初老の男性が、ガラステーブルを挟んで座っていた。
 リズに気付くと、男性は軽く会釈した。
「お邪魔してますよ」
 こちらに背を向ける形で座っていたテランスは立ち上がり、リズにお辞儀した。
「お帰りなさい、リズ」
「ただいま」
 テランスにそっけない返事をしながら、リズは、男性を見つめていた。淡いグレーの背広を着て、薄いながらも整った髪型をしている。以前何度か顔を合わせたことがある。父の日本の友人のひとりで、遠藤という男性だ。リズは、父から警察の人だと聞かされている。
「リズ、こちらに」
 テランスに促されて、リズはテランスの隣に立った。
「急に訪ねて、驚かせてしまったね。実は、テランスさんにちょっと聞きたいことがあって」
 遠藤は、和やかに微笑んで見せた。
「お久しぶりです。どうなさったんですか?」
「まず、お座りになられて」
 テランスがそう言って、3人はひとまず腰を下ろした。
 遠藤は、「お嬢さんも聞いているかもしれないけど」と前置きして話し出した。
「一昨日と昨日で、中学生が襲われる事件が立て続けにあってね。それについて何か知っていることがないか、聞いて回ってたんだ」
 白々しく、そうだ、と言って続けた。
「お嬢さんも、何か知ってることがあったら聞かせてくれないかね。時間はとらせないから」
 リズは、自分の表情が険しくなるのがはっきり解った。もう考えたくない。そっとテランスの手を握る。テランスも握り返す。
「どんな些細なことでも良いんだよ。教えてくれないかな」
 日曜日に見たことは思い出したくもない。話したくない、言葉が出てこない。
「いや、申し訳なかった。無理にとは言わない。もう大丈夫だよ」
 遠藤が見かねて言った言葉で、リズは安心した。
「リズ、友達を傷つけた犯人を早く見つけるためにも、リズが見たことを遠藤さんに話すべきです」
 テランスは、力づけるようにリズに囁いた。テランスの言葉に、リズは話さなくて良いんだと安心した自分が恥ずかしくなった。テランスは手を固く握りしめながら続ける。
「Liz, it is scary when you running away」
 リズは一層強くテランスの手を握り返して、話さなければならないと観念した。逃げているうちは、怖いのなら、向き合えば、怖さはなくなっていくのだろうか。

「なるほど。ありがとう、よく解ったよ」
 リズのたどたどしい話を聞き終えて、遠藤は優しく微笑みリズにお礼を言った。リズは胸のつかえが取れた気がした。それに、事件の解決に役立てた気がして少し嬉しかった。
「ところで、もうひとつ聞きたいんだけど、良いかな」
 聞きづらいことなのか、遠藤の眼が少し泳いだ。
「答えられることなら」
 リズがテランスの手を握る力は、少し弱くなった。テランスも少し力を緩め、リズが事件に向き合おうとしているのを見守る。
「被害者の、溝口君と、景山さんの、交友関係についてなんだがね」
 電気が走ったように、テランスの手を握る力が強くなった。
「どうしてですか?」
 意識する前に、リズは身を引いて、遠藤をにらんでいた。
「いやいや。というのもだ」
 遠藤はなだめるように右手の平をリズに向けた。
「2人とも、同じ証言していてね。後ろから突然殴り倒されて、そこから殴られたり蹴られたりした。だから犯人については何も見ていないから、解らない。だけど、それはおかしいんだ。状況から判断すれば、2人は犯人を見ているハズでね。2人とも犯人をかばっているとしか考えられない」
「それで、何か事情がある、とお考えですか」
 テランスは遠藤の言葉を受けた。遠藤は黙ってうなずいて続けた。
「それに、同じ学校の生徒が襲われてる。同一犯という見方もあってね。2人の交友関係が解れば、見当をつけられるかも知れない」
「話したくありません」
 リズに断られて、遠藤は一度眼を伏せたが、またすぐリズを見た。
「そこを、なんとかお願いできないかな」
「お話する理由がありません。だって考えて見てください。犯人が学校の生徒でないなら、こっちの事情をお話しすることに何の意味もありません。それにもし犯人が、そんなことは絶対ないと思いますけど、万一犯人が私達の中にいるとすれば、それは私達の問題です。私達で解決しますから、遠藤さん達には関係ありません」
 勢いに任せて一気に話したせいで、リズは少し息切れした。体が熱い。
「関係ないってことはないんだ。被害者が出ている以上――」
「遠藤さん」
 諭すような調子で話しだした遠藤を、テランスが制止した。
「お嬢様がこうおっしゃられています。今日のところは、お引き取りください」
「いや、ご迷惑おかけしました」
 水を差された遠藤は、未練がましそうに立ちあがって一礼した。それからテランスとリズに送られて、玄関まで来た。
「お嬢さん。お嬢さんの見たことで、もし思い出したことがあったら、いつでも連絡をください」
 最後にそう言うと、遠藤は連絡先の書かれた紙をリズに渡して帰って行った。
「Liz, you were brave」
 遠藤が出ていくと直ぐ、テランスはそう言ってリズの頭を撫でた。
「Impossible」
 リズはそれだけ呟くと、疲れた足取りでリビングに戻った。

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空疎

あなたはただのゼリーです
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あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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