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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

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「ゆげ」(I)

仕事からの帰り道、歩きながら自分の家に電話をかける。誰も出ない。留守番電話に切り替わるので、伝言を残す。何を話すわけではないので伝言という言い方は正確ではないかもしれない。私は受話器に向かってひたすら息を吐く。吐きながら、歩くスピードを少しずつ早くする。とちゅう長いのぼり坂があったりして、息はどんどん荒くなっていく。やがて家の前に着いたところで、私は電話を切る。もう汗びっしょりだ。
部屋に入り、服を着替えて、水を飲みながら、今日のことをいろいろ思い出す。街は朝から賑やかだった。今日も誰とも話さなかった。昼休みに公園に行って、ベンチの上で眠っている猫を見たが、蠅がたくさんたかっていたから、あれは死にかけていたのかもしれなかった。
家の電話がちかちか光っている。伝言が残されているのだ。再生ボタンを押す。この瞬間はいつもドキドキするので、爪を噛んで心を落ち着かせる。やがて小さなスピーカーから、賑やかな街の喧噪と、私が息を吐く音が、交互に聞こえてくる。
私の部屋はいつも寒いから、吐く息は受話器から湯気となって立ち上る。私はそれをじっと見ている。ふと昼間の猫のことを思い出し、すぐにどうでもよくなる。
坂に差し掛かったのだろう、やがて息遣いが荒くなると、受話器から湯気が勢いよく噴き出し、部屋じゅうに充満する。その湯気は畑を焼いたときのようなにおいがする。そのにおいを嗅ぐと実家が思い出されてほっとする。ほっとした背中に夜がのしかかってくる。

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文芸サークル「鉄人四迷」の作品を公開しています。
小説・詩・脚本を中心に、月ごとのテーマ読み物など随時更新中。
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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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姉妹は仲の悪いまま年老いて
 町は背を伸ばし肥え太る
幾度かの通夜と性交を経て
 雪は降らなくなった
生まれた家は駅に食われたが
 風は相変わらず強く吹いている
姉妹は仲の悪いまま年老いたが
 市長に品が無い
 という意見だけは一致している


「姉妹は」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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