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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「炭の街」(小石薫)

登場人物

柊葉子(柊)  美大二年
松原浩樹(松) 工芸品店店長
熊倉雅美(熊) 工芸品店の客
ナレーター(ナ) 柊と二役

*****


ナレーター
「2月28日」


カラコロと鈴の音



「聞いた? また火事だって」


「いらっしゃい。最近そんな話ばっかり聞くな。タバコ?」


「いいや、今度はストーブだって。お、新しいグラスだ」


「それ友達がさ、送ってきたやつなんだけど、どうだ?」


「琉球ガラスだね」


「そんなの、見れば解る。買ってくか?」


「この青、良いじゃない。実にすばらしい。買わないけど」


「たまには買ってけよ」


カラコロと鈴の音

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登場人物

柊葉子(柊)  美大二年
松原浩樹(松) 工芸品店店長
熊倉雅美(熊) 工芸品店の客
ナレーター(ナ) 柊と二役

*****


ナレーター
「2月28日」


カラコロと鈴の音



「聞いた? また火事だって」


「いらっしゃい。最近そんな話ばっかり聞くな。タバコ?」


「いいや、今度はストーブだって。お、新しいグラスだ」


「それ友達がさ、送ってきたやつなんだけど、どうだ?」


「琉球ガラスだね」


「そんなの、見れば解る。買ってくか?」


「この青、良いじゃない。実にすばらしい。買わないけど」


「たまには買ってけよ」


カラコロと鈴の音



「こんにちは。おぉ」


「あれ、葉子ちゃん。学校の課題は?」


「今日はもう作業終わりです。それより雅美さん、それ、手に持ってるの」


「良いよねぇ。さすが美術大学の学生さんは見る目がある」


「琉球ガラス、好きなんですよ」


「それ、コーラの瓶と泡盛の瓶だって」


「何いってんの? グラスでしょこれ」


「琉球ガラスは、空き瓶を溶かして再利用したのが始まりなんです。今は新しいガラスを溶かして作るのもあるみたいですけど。でもコーラと泡盛って面白い組み合わせですね」


「知らなかったろ」


「し、知ってたよ。それより、葉子ちゃん、課題の進み具合はどうかな? ねぇ、今日は終わりなんて、頑張らなくていいの?」


「大丈夫です。後は仕上げだけですから。私の5ヵ年ならぬ1ヵ年計画は完璧です。だからそれ、もっと見せてください」


「葉子ちゃん、買ってく?」


「いやぁ、欲しいんですけど。アルバイトのお給料が出るまでビンボーなんですよ」


「でも欲しいんでしょ? どうしても」


「だって良いですよこれ。買ったらどこに飾ろう。皆の見える所に飾って、皆で楽しもうかな。うん、そうしよう。じゃあ、作業部屋に飾らないと。(ふと気がついて)あ」


「ん、どした?」


「作業部屋、あとで掃除しようと思ってそのままだった。課題で作ったのも、倉庫にしまってこないと」


「じゃあ、行ってきなよ。それ、バイトの給料出るまでキープしとくから」


「いいんですか!? ありがとうございます。じゃ、今日はこれで。さよなら」


カラコロと鈴の音



「ところで、葉子ちゃん、課題で何やってんの?」


「木像作るって言ってたよ。あ、このスカーフ良いなぁ。キープしといて」


「いま買いな」


「ちぇっ」

ナレーター
「3月10日」


「やっとお給料でましたよ~」


「はは。待ちに待っただろ」


「そりゃもう。課題も期限より一週間も早く完成したし、これがほんとうに楽しみでした。そうそう、作品は学校の倉庫に保管してあるんですけど、結構広いんですよ、うちの倉庫。石油ストーブもあって、ちょっとした作業なら中でできるくらい」


「じゃあこれは、ご褒美ってとこかな」


「やったぁ。あのですね、私いま、すごく幸せです! ちょっと語って良いですか? 私の、この一年の苦労という苦労を」


鈴の音、慌しく鳴る



「あ、いた。葉子ちゃん!」


「雅美さんも聞いてくか? 葉子ちゃんの苦労自慢」


「別に自慢ってわけじゃ――」


「そんなことより倉庫――」


「倉庫?」


「学校の倉庫、火が出たって!」


「え!? ちょ、ちょっと、見てきます」


鈴の音、慌しく鳴る





カラコロと鈴の音



「どうだった?」


「部屋ひとつ焼いて、火は、消えました。でも、燃えたの、私の作品のあった部屋だった。全部、焼けちゃいました。真っ黒に。あはは。はぁ。私の一年、炭になっちゃった。あ~あ、私もう帰ります」


カラコロと鈴の音


ナレーター
「3月17日」


「葉子ちゃんの課題の期限、今日、だったな」


「この課題ってさ、合格しないと進級できないって、夏ごろ葉子ちゃん言ってなかった?」


カラコロと鈴の音



「あぁ、葉子ちゃん」


「見て欲しいものがあるです。すみませんけど、お二人に来てもらっていいですか?」


「あぁいいよ。ちょうど今日は働きたくなかったんだ」


「自由で良いなぁ、君は。ま、私も暇だけどね」


「ありがとうございます」






「葉子ちゃんの部屋、初めてだ」


「真ん中の新聞紙、なに?」


「覆いです。この下に――」


「これは――。街か」


「これ、一週間で作ったの?」


「一年ですよ。木彫りの街の模型ってことで。背の高いのはビルで、白い点は窓ですよ? ただの四角じゃなくて、上の方が細い近代的なデザインになってます。でビルの隣にある四角いのはコンビニ、そこら辺に並んでる小さいのは自動車で、もっと小さいのが人間です。真ん中のはモニュメント。待ち合わせに最適です」


「うわぁ。これ炭に色が塗ってあるんだ。車も丁寧だし、道路の白線までかいてるんだ。豆粒みたいなのに人も綺麗に塗ってて、(発見したことに嬉しそうな様子で)あは、ちゃんと顔までかいてある」


「葉子ちゃん、一年って、つまり、これは――」


「そうですよ。焼けちゃったやつです。ビルは天使だったんです。何回もやり直して、一生懸命彫って。コンビニは天使の座る台で、モニュメントは天使の持ってるハープで、一番苦労しました。それ全部、街の一部ってことで。自動車や人は、崩れちゃった炭の欠片を形整えて作りました」


「あ、そう、だったんだ」


「そして今ここに! よみがえったわけです。実はちゃっかり先生から合格いただきました。これから展示室に運んで、しばらく飾ることになってます」


「葉子ちゃんは、ほんとにたくましいな」


「えへへ。ずいぶん泣きましたけど」


「炭の街か。きれいだな」


「うん。ほんとにそう思う。葉子ちゃん、頑張ったね。おめでとう」


「はい!」


おわり

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


---------------------------

六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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