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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「つげ口」(I)

1

明け方のリビング。ソファに女が寝転んでいる。腹の大きな女。ソファの前にはテーブルがあり、その上に手付かずの夕食。ラップには露が溜まっている。女はそれを、澄んだような濁ったような目で見つめている。


時計の針が動く。


窓際に飾られた一枚の写真。女と、ここにいない女の夫が、仲睦まじげに写っている。


時計の針が動く。女の目がまどろんでくる。遠くから小さな足音が聞こえてくる。

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1

明け方のリビング。ソファに女が寝転んでいる。腹の大きな女。ソファの前にはテーブルがあり、その上に手付かずの夕食。ラップには露が溜まっている。女はそれを、澄んだような濁ったような目で見つめている。


時計の針が動く。


窓際に飾られた一枚の写真。女と、ここにいない女の夫が、仲睦まじげに写っている。


時計の針が動く。女の目がまどろんでくる。遠くから小さな足音が聞こえてくる。



2

女がゆっくりと目を開ける。


女の傍らに、三歳くらいの男の子が立っている。素っ裸で、女をじっと見下ろしている。手には乗用車タイプのミニカー。もう片方の手にはトラックを模したミニカー。しばらく見つめあう女と男の子。


女の腹はいつの間にかへこんでいる。


不意に男の子がぷいっと女に背を向け、床で乗用車のミニカーを走らせて遊びはじめる。リビングに響く小さな車輪の音。女はそれをとても遠くで起きていることのように眺めている。男の子がミニカーを床に置き、トラックを手にとる。男の子が床に置いたミニカーを見て、女が少しはっとする。



3

空っぽの駐車場に朝の光が差しはじめている。



4

男の子がミニカーの横っ腹にトラックをぶつける。男の子の目は冷たい。動きが徐々に激しくなる。かたいプラスチック同士がぶつかる音が大きくなっていく。


不審に思った女がソファから身を起こし、機械的な声でつぶやく。



「静かに遊びなさい……」


男の子が立ち上がって振り向く。足元のミニカーから黒煙が立ち昇っている。女が眉間に皺を寄せ、ゆっくりと近づいていく。ミニカーの中に人影が見える。


運転席に血まみれの夫。ズボンのベルトが外れている。助手席に派手な格好をした見知らぬ女。夫の股間に顔を埋め、やはり血まみれで息絶えている。



5

部屋に朝日が差し込んでいる。


電話の音。


女がはっと目を覚ます。男の子の姿は消えている。



「……」


急き立てるような電話の音とは裏腹に、女はゆっくりと伸びをし、あくびをしながら電話に向かう。受話器を取る直前、思いついたように後ろを振り向く。男の子が立っている。女は微笑んで手招きをする。男の子が女のもとに駆けていく。


<了>

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空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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