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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

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「A DAY IN THE LIFE」(I)

 もう首が回らなくなっていた。自殺しようとしたら、保険料滞納で契約が切れていた。女房は息子を連れて実家に逃げた。
 スキンヘッドのイジュウインヒカルみたいな奴にぶん殴られて、気がついたら病院にいた。ベッドの上じゃない。手術台の上だ。

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 もう首が回らなくなっていた。自殺しようとしたら、保険料滞納で契約が切れていた。女房は息子を連れて実家に逃げた。
 スキンヘッドのイジュウインヒカルみたいな奴にぶん殴られて、気がついたら病院にいた。ベッドの上じゃない。手術台の上だ。
 イノウエヒサシみたいな顔の執刀医が私の腹をさすりながら、「ココノオタカラ、800マンヨ」と明るい声で言った。
 ツチヤアンナみたいな顔の看護婦が、私の腕に刺さった点滴に何か入れた。
 意識が遠くなってきた。麻酔だ。
 しかし、私の意識はギリギリのところをさまよい続けた。
 イノウエヒサシみたいな顔の執刀医は私の顔を覗き込み、「コマタネ」と呟き、「イシキアルヨ」と続け、おもむろに内線の受話器を掴んだ。
 ほどなくして若い看護婦がやってきた。私の大好きなキノシタユズカに似ていた。ナース帽がよく似合っていた。
 キノシタユズカは手術台に腰かけ、私の耳元に唇を寄せた。
 予想以上に甲高い声と、妙なメロディーが脳内に流れ込んできた。
 そのメロディーはどこかの訛りかもしれなかった。
 そこで私は喉が渇いていることに気づいた。
 気づきながら、私の意識は遠のいていった。


**********


(一)

王たちは珍しい動物を欲していました。
ハンターたちは世界中をくまなく探し回り、見たこともない動物を捕まえてきました。
王たちはハンターたちに褒美を与えました。


(二)

王たちはなおも珍しい動物を欲していました。
科学者たちはありふれた動物をこねくり回し、見たこともない動物を生み出しました。
虹色の瞳を持つサメや、ライオンの頭を持つ熱帯魚や、熱帯魚の頭を持つライオンや、髪の生えたワニや、球状の猫や、首が20本もあるキリンが、王たちの前に差し出されました。
王たちは科学者たちに褒美を与えました。


(三)

王たちはなおも珍しい動物を欲していました。
ありふれた動物たちはみなどこかに消えてしまっていました。
科学者たちは広告を出しました。


(四)

科学者たちのもとに、金貨を求める人々が自分の子どもを引きずって列をなしました。
科学者は子どもたちの背中に白い翼を生やしました。
変わり者の王の注文によって、黒い翼と黒い尾を生やされた子どももいました。
王たちは科学者たちに褒美を与えました。
科学者たちは子どもを引きずってきた人々に金貨を与えました。


(五)

王たちの前に差し出された子どもたちは、大切に育てられました。
王たちの前に差し出されなかった子どもたちより、ずっと豪華な食事を与えられました。
翼を生やされた子どもたちは時々王たちの城や屋敷を抜け出して、そのことを人々に吹聴して回りました。


(六)

科学者たちのもとに、筋骨隆々な男たちが列をなしました。
科学者たちはそんな男たちの下半身に、馬の体をくっつけました。
科学者たちのもとに、立派な髭をたくわえた男たちが列をなしました。
科学者たちはそんな男たちの下半身に、タコの体をくっつけました。
科学者たちのもとに、眼力の鋭い女たちが列をなしました。
科学者たちはそんな女たちの髪を抜き、かわりに蛇を植えました。
王たちは寝る間も惜しんで褒美を与えました。


(七)

ある日、若い科学者が、広告を刷り上げました。


(八)

「人魚になろう」


(八の二)

若い科学者は無精ひげを剃りました。


(九)

長い嵐が続いたある春のことでした。
崖の上の城に、若くして妻を失った王が住んでいました。
ある晩、若くして妻を失った王は、地下室に下りました。
地下室では、背に蝶の羽を生やした女が眠っていました。
若くして妻を失った王は、おもむろに背に蝶の羽を生やした女の鎖を外し、その緑がかった股ぐらの奥に、十日間、一日も欠かさず毎晩三回精水を搾り出しました。
背に蝶の羽を生やした女は、嵐が去る頃、茶色がかった股ぐらの奥から、王の面影がへばりついた不思議な塊をひねり出しました。


(十)

王たちは、会議を開きました。
王たちは、偽善に目覚めました。
(過去や歴史を変えることはできないが、未来は気づきと努力で変えることができる)
そして科学者たちは首をはねられました。
かつて人であった珍しい動物たちは方舟に乗せられて、遠い島に放たれました。


(十一)

若くして妻を失った王は今まさに判決を読み上げようとしていた裁判長の目の前で、舌を噛んで死にました。


(十二)

かろうじて逃げのびた若い科学者は慌てて広告を丸め、川に投げ捨てました。


(十三)

寒い日が続いたある夏のことでした。
家業である床屋を継いだ若い科学者を、若い女が訪ねてきました。
女は車椅子に乗っていました。
女の手には、かつて若い科学者だった床屋が「科学」と呟くだけで幸せな気持ちになれた頃に刷った広告が握られていました。
若い科学者だった床屋は店を閉め、女と散歩に出かけました。
女はゆっくりと話しはじめました。


(十四)

女は生まれたときから足が動きませんでした。
くわえて生まれたときから貧乏でした。


(十四の二)

女には母だけがいました。
母は女に本を読んできかせました。
女は母が読んでくれる本が大好きでした。
とりわけ人魚の話に女は夢中になりました。


(十四の三)

人魚は海の中を自由自在に泳ぎ回りました。
そして、男を誘惑したり、誘惑した男を破滅させたり、船を転覆させたりするのでした。
女は毎晩夢の中で人魚になり、自分の足(といっていいかわかりませんが)を優雅に動かして、海を自由自在に泳ぎ回りました。
そして、見よう見まねで、男を誘惑したり、誘惑した男を破滅させたり、船を転覆させたりしました。
女は朝目覚めたあと、母が自分の足で歩いているのを見るたびに、なんて窮屈そうなんだろうとさえ思うようになっていました。
だから、現実の足が動かなくても平気でした。
夢の中で手に入れた足(といっていいかわかりませんが)こそが、女の宝物でした。


(十四の四)

だから、女は、にんぎょひめのお話は大嫌いでした。
男のためにわざわざ人間の足を手に入れるたがるなんて、よっぽど馬鹿な女なのだろう、と思っていました。


(十五)

女の母は女を心底愛していましたが、貧乏を心底憎んでいました。
母はある日、娘のために、科学者のもとに並ぶ人々の列に加わりました。


(十六)

女は母を失うかわりに、毎月送られてくる大量の金貨と、生真面目なメイドを得ました。
メイドはつまらない女でした。
月に2通の母からの手紙と、それなりの住まいとそれなりの食事とそれなりの衣装とそれなりの友だちが、女の生活の全てでした。
それから女は、夢の中で人魚になることはほとんどなくなっていました。


(十七)

女が20歳になった頃、母は反則技でどこかの国の王妃となりました。
どこかの国の王はすぐに自殺しました。
翌朝メイドは消えていました。


(十七の二)

女は金貨と手紙と住まいと食事と衣装と友だちとメイドをいっぺんに失いました。


(十七の三)

母はどこかの国よりもっと遠いどこかの島で暮らしているといいます。


(十八)

話し終えた女は若い科学者だった床屋に、私を人魚にしてください、と言いました。
若い科学者だった床屋は驚いて、女の顔をしげしげと見つめました。
女は、人魚になって海を渡り、どこかの国よりもっと遠いどこかの島で暮らしているという母に会いに行きたいのです、と続けました。
二度と戻ることはできないだろう、と若い科学者だった床屋は言いました。
構いませんと、女は言いました。
二度と戻ることはできないだろうに、と若い科学者だった床屋は涙を流しながら言いました。


(十九)

若い科学者だった床屋は、地下室の鍵の錆びを落としました。


(二十)

人魚になった女は、大海原を、教えられた方角に向かって一直線に泳ぎ始めました。


(二十一)

辺境の地に、偽善に疲れた王がいました。
偽善に疲れた王は、その疲れを癒すため、銛と銃と網を担いで船旅に出発しました。
風のない日が続いたある秋のことでした。


(二十二)

偽善に疲れた王は、岩陰で体を休める人魚を見つけました。
人魚は疲れ果てているようでした。
偽善に疲れた王は人魚に近づき、声をかけました。
偽善に疲れた王は手荒な真似をするつもりはありませんでしたし、人魚もそのことに気づいたようでした。
偽善に疲れた王は人魚を丁重に船に招き入れ、人魚は偽善に疲れた王におとなしく従いました。


(二十三)

偽善に疲れた王がまだ偽善に疲れていなかった頃、王妃が娘を産みました。
娘は、生まれたときから足が動きませんでした。
金貨と名誉を求める医師や祈祷師が、朝から晩まで城の前に列をなしましたが、足はぴくりとも動きませんでした。
王妃や乳母は本を読みきかせることに力を入れました。
娘は、本の虜になりました。
やがて娘は、人魚の話に夢中になりました。
人魚を手に入れたいと願ったりもしました。
しかしそれは叶わぬ願いでした。
娘は父を恨んだりはしませんでした。
まだ偽善に疲れていなかった偽善に疲れた王にとって、それは余計に辛いことでした。
娘の8歳の誕生日、まだ偽善に疲れていなかった偽善に疲れた王は、娘にドレスをプレゼントしました。それは世界中の宝石を百万個あしらった物でした。
娘は喜ぶふりをしました。
しかし娘は、父を騙し切ることができるほど達者な演技ができる歳ではありませんでした。
彼女の父はその晩、ついに偽善に疲れてしまいました。


(二十四)

偽善に疲れた王は、王妃と娘と信頼できる家臣を集めました。
人魚は、驚く王妃と娘と信頼できる家臣に頭を下げました。
「はじめまして、みなさま、わたしは、とおいうみからやってきました」


(二十四の二)

人魚の思考はひらがなになっていました。


(二十五)

偽善に疲れた王は、人魚の望む物をたいてい与えました。
人魚は再び金貨と住まいと食事と衣装とメイドを手に入れました。
人魚は偽善に疲れた王の望みに従い、娘に尽くしました。
娘のために歌をうたい、踊りをおどりました。
娘の髪をとかし、本を読みきかせ(ただし童話の類は禁じられていました)、娘が落ち込んでいるときはその薔薇色の頬にキスをしました。
娘は少しずつ明るさを取り戻していきました。
人魚はそんな娘が愛おしくてたまりませんでした。


(二十六)

ある日、娘の足が少し動きました。


(二十七)

人魚は、信じられないほどの褒美を与えられました。
人魚のために塔が建てられました。


(二十七の二)

人魚は塔の最上階で、世界一甘い果実から作られた酒を黄金の盃で飲みながら、遠い国が大飢饉に襲われたというニュースを聞きました。
人魚は何かを思い出そうとしましたが、思い出せませんでした。


(二十七の三)

人魚は塔の最上階で、世界一美しい花を浮かべた純銀製のプールで泳ぎながら、遠い島が火山の噴火で沈んだというニュースを聞きました。
人魚は何かを思い出そうとしましたが、思い出せませんでした。


(二十八)

その日人魚は娘に泳ぎを教えていました。
日が傾きかけた頃、泳ぎ疲れた二人は、塔の最上階の純銀製のプールに、手をつないで浮かんでいました。
ふと人魚が窓の外に目を向けると、山と森の向こうに、水平線が見えました。
人魚は何かを思い出しそうになりましたが、思い出せませんでした。
娘が怪訝そうな顔で人魚に尋ねました。


(二十八の二)

娘「何を見ているの?」

人魚「なにもみていないわ」

娘「あの向こうに何かがあるの?」

人魚「わからない」

娘「……行っちゃうの?」

人魚「えっ?」

娘「あの向こうに、行っちゃうの?」

人魚「どうして?」

娘「なんとなく、そんな感じがするわ」

人魚「……」

娘「行かないでね」

人魚「ええ、いかないわ」

娘「絶対?」

人魚「うん、ぜったい。しんぱいかけてごめんなさい」


(二十八の三)

人魚は娘の薔薇色の頬にキスをしました。


(二十九)

娘は83歳で死にました。
結局、自分の足で歩くことはできませんでした。


(三十)

人魚は娘の後を追い、毒を飲んで死にました。
人魚の頬は薔薇色でした。


**********


 奇妙な夢から覚めると、イノウエヒサシもツチヤアンナもキノシタユズカもいなくなっていた。
 腹の左側をさすると、縫い目があった。
 枕元には“腎臓代 ¥8000000”とやたら達筆で書かれた領収書が置かれていた。
 私は靴下を脱ぎ、隠しておいた虎の子の千円を握り締め、入院服のまま病院を後にした。
 カキ氷が食べたかった。

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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姉妹は仲の悪いまま年老いて
 町は背を伸ばし肥え太る
幾度かの通夜と性交を経て
 雪は降らなくなった
生まれた家は駅に食われたが
 風は相変わらず強く吹いている
姉妹は仲の悪いまま年老いたが
 市長に品が無い
 という意見だけは一致している


「姉妹は」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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