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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

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「間違った方向へしか進まないバスに乗った子供たちはみな夢を見ていた」(空疎)

 間違った方向へしか進まないバスに乗った子供たちはみな夢を見ていた。それぞれに好き勝手な夢を見ていた。子供たちが深く眠り自由に夢を見る間、バスは間違った方向へと進み続けていた。

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 間違った方向へしか進まないバスに乗った子供たちはみな夢を見ていた。それぞれに好き勝手な夢を見ていた。子供たちが深く眠り自由に夢を見る間、バスは間違った方向へと進み続けていた。
 ひとりは花になっていた。蝶とミツバチが自分を奪い合う様を花は微笑んで見つめていた。ひとりは老いたインディアンと共に焚き火を囲んでいた。宇宙の秘密に触れた気がしていた。ひとりは厨房でマカロニを茹でていた。早く早くと焦りながらマカロニを茹で続けていた。みなバスの中で深く眠っていた。
 バスはどこまでも間違った方向へと進んでいた。運転手だけは知っていた。バスが間違った方向へ進んでいると知っていた。運転手は正しい方向へ進もうと懸命にハンドルを切っていた。しかしバスは間違った方向へしか進まなかった。いつか運転手は諦めた。運転手は夢を見た。南の島で波音に耳を澄ませていた。運転手もまた子供だった。運転手は最後のひとりだった。バスは間違った方向へ走り続けた。
 ひとりは夢を見ていた。夢の中で夢を見ていた。自分が夢を見ているとわかっていた。目を覚ますのが恐ろしかった。だから夢の中の夢でまた夢を見た。深く深く夢へ潜っていった。しかしどこまで潜っても、これは夢だとわかっていた。
 羽ばたいた蝶は針に刺され、針を失くしたミツバチは息絶え、焚き火はいつか燃え尽きてマカロニは全て鍋からこぼれた。花びらが散りつくしその葉が惨めに萎れると、飛来した雲が全て包んで覆い隠した。子供たちは安らかに眠り続けた。バスは間違った方向へと進み続けた。
 白く霞んだ雲の中で夢はそれぞれに幸せだった。「夢じゃない」ひとりがそう囁くとみな同じように囁き始めた。「夢じゃない」雲の中で無数の夢が囁いていた。夢じゃない、夢じゃない、夢じゃない…………。
 バスは雲の中を走る。雲の中は囁き声で満ちている。深く眠る子供たちは夢にその声を聞く。夢の中で繰り返す。満たされた子供たちは安らかに眠る。安らかに眠る子供たちは満たされている。バスは雲の中を走る。深く眠る子供たちを乗せたバスは間違った方向へしか進まない。間違った方向へしか進まないバスはどこへも辿り着かない。バスは深く眠る子供たちを乗せて間違った方向へどこまでも進む。
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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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姉妹は仲の悪いまま年老いて
 町は背を伸ばし肥え太る
幾度かの通夜と性交を経て
 雪は降らなくなった
生まれた家は駅に食われたが
 風は相変わらず強く吹いている
姉妹は仲の悪いまま年老いたが
 市長に品が無い
 という意見だけは一致している


「姉妹は」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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