忍者ブログ

文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「檸檬」(I)


 夕方、コンビニに行った帰り道、ふといつもと違う道を歩きたくなり、ビルとビルの間の狭い路地に入ってみると、案の定慣れない道に迷ってしまった。


-------------------------------------------------------------------------------------

 夕方、コンビニに行った帰り道、ふといつもと違う道を歩きたくなり、ビルとビルの間の狭い路地に入ってみると、案の定慣れない道に迷ってしまった。しかし、仕方なくうろうろしているうちに、急に空間が開けて、丸く柵で囲まれた森のようなところに出た。
 そこには夕陽の熱と光がすべて集まっているらしくて、非常に暑く、それで何もかもが黄金色に見える。本来ならそこにあるはずのビルや建物は、夕陽の熱のせいで、コンクリートの皮膚が溶けるように剥がれ、その中から檸檬の樹が顔を覗かせている。地面は苔のような深い緑に覆われていて、そのあちこちにスーツやジャージが脱ぎ捨てられている。遠くの方に、馬や兎が跳ねているのが見えるので、おそらく彼らの持ち物なのだと思う。
 どうやら夕陽の熱は、彼らの体も溶かしてしまったようだ。枝を子りすが行ったり来たりしている樹の根元には、幼稚園の制服が落ちている。やがてそんなものを眺めているうちに、私の体も溶けていたらしく、気がついたときには安物のシャツの中から心臓がぽろりとこぼれ落ちるのがわかったが、あっと思う間もなく、それがすぐに赤い鳥になって、夜の帳が降りはじめた樹々の向こうへ飛び去っていった。

拍手

PR

当サイトについて

文芸サークル「鉄人四迷」の作品を公開しています。
小説・詩・脚本を中心に、月ごとのテーマ読み物など随時更新中。
それぞれ違うタイプの作家たちによる、バラエティ豊かな作品をお楽しみください。(作者紹介はこちら。
ご意見・ご感想お待ちしております! コメント欄もしくはメールフォームよりお送りください。

なお、当サイトで公開している各作品の著作権はすべて作者に帰属します。
掲載された文章の無断転用を禁じます。

作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


---------------------------

六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

個人サイト

---------------------------

小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


---------------------------

金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

お問い合わせメールフォーム

カレンダー

06 2020/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

リンクについて

リンクはご自由にお貼りください。
連絡は必須ではありませんが、いただけたら喜びます。
必要であれば下記のバナーをご利用ください。





サイト名 :
文芸サークル「鉄人四迷」のページ
URL :
http://4mei.blog.shinobi.jp/

ブログ内検索

P R

Copyright © 文芸サークル「鉄人四迷」のページ : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]