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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

うかつ(六井象)

せっかく化けて出たのに、あいつに会う前に、通りかかった野良猫になつかれてしまい、思わず顔がほころんでしまった。ああ、もういい、もういい。廃業だ、幽霊は。

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冬(六井象)

 母ちゃん。
 あの雪だるま、いつまで経っても、溶けないね。

 ××ちゃん。
 お坊さん呼んできて。

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モーツァルト(六井象)

「終わりなんですね」「もう終わりなんですね」トラックはそうつぶやいた。ある日のスクラップ工場、プレスされつつあるオンボロトラック、いつもなら「右に曲がります」だの「バックします」だの言っているあの声で、「もう終わりなんですね」トラックは確かにそうつぶやいた。そして続けた。「私にも思い出があります」「ラジオからふいに流れてきたモーツァルトに、あのガサツな男がそっと涙していたこと」「抜けるような青空の下、広大な大地を走り抜けたこと」「ある日の休憩中、あの男が母ちゃんとつぶやいて寝返りをうったこと」「それから……」それから先はもう何も聞こえなかった。トラックはすっかりぺちゃんこになっていた。「たまにあることだ、気にすんな」いつの間にか俺の傍に立っていた工場の先輩が、そう言って肩をポンと叩いた。点けっぱなしにしている工場のラジオがクラシック音楽を流していることにふいに気づいた。が、それがモーツァルトなのかどうか、俺にはわからなかった。

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ヒマワリ(六井象)

スマホの待受画面をゴッホのヒマワリに設定した。誰に見せるわけでもないけど、何かかっこつけたかったのだ。しかし、その日から、外を出歩くたびに、数本のヒマワリに後を尾けられるようになってしまった。この辺に、ヒマワリが咲いている場所なんてないのに。このヒマワリたち、何をしてくるわけでもなさそうだが、しかし、尾行の目的がわからないから、いまさらスマホの待受を他の画像に変えるのも何となく怖い。明るい画面のスマホを持ち歩きながら、ヒマワリの尾行に怯える日々。せめて写楽とかにすればよかった。尾けられても言葉は通じそうだから。いや、でもあのデカい顔で見つめられたらそれはそれで恐ろしい。じゃあモナリザ?ダメだ、イタリア語なんてわからない。ああ、もう。誰に見せるわけでもないのに、かっこつけなければよかった。

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亡霊(六井象)

夜道を歩いていると、粗大ゴミ置き場の周りに、何か人魂のようなものがいくつも漂っているのが見えた。近づいてよく見ると、それは焼き豆腐の亡霊だった。亡霊のすぐ傍には、使い古されたすき焼き鍋が無造作に捨てられていた。これの元の持ち主は、よっぽど焼き豆腐に恨みを買うようなことをしたらしい。焼き豆腐の亡霊は四角いくらげみたいで綺麗だった。ので、スマホのカメラで撮影して家に帰った。のだが、帰ってからふと「一応これって心霊写真なのか」と気づいて少し震えた。結局スマホに塩を撒き、写真はすぐに削除してしまったが、あの日以来、すき焼きに焼き豆腐を入れてしまったら何かが起きそうで、恐くて仕方ない。いや、仕方ないってほどではない。でも、ちょっと躊躇してしまう。

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同じレンジ(六井象)

新しいゲームを買ってもらったので、休日の朝から、近所の××君の家に行った。インターフォンを鳴らすと、××君のお母さんが出てきた。「××君お願いします」「すぐに用意するから待っててね」通された居間でジュースを飲んでいると、電子レンジのあたため終了の音がピーッと鳴って、丸々肥った××君が現れた。「超デブじゃん」「母ちゃんが失敗した」そんなことを言いつつ、新しいゲームを早速二人で対戦プレイしたが、さすが××君、まったく歯が立たない。やっと××君に勝てたのは、夕方過ぎ、彼がすっかり萎んでコントローラーをまともに持てなくなった後だった。でもこれは正当な勝ちとは言えないだろう。「またやろうな」そう声をかけると、××君は足下から「ふぉぅ」と気の抜けた返事をした。帰り際、××君のお母さんがあったかい肉まんを持たせてくれた。××君に使ったのと同じレンジであたためたらしく、ちょっとだけ××君のにおいがするのが気になった。

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……(六井象)

ベランダに出て空を眺めながら、本当に何も考えずぼーっとしていたら、はっと気がつくと足下に「・」がいっぱい落ちていた。「……」の「・」らしい。あとで片づければいいやと思い、つま先でベランダの端に集めてそのまま放置しておいたら、夕方頃カラスがやってきて、「・」をしげしげと興味深そうに眺めたあと、いくつか飲み込んで飛び去っていった。その日は、いつもはうるさいカラスの鳴き交わす声が、ちょっとだけ静かだった。

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アート(六井象)

美術館へ行ったら、ある額縁の前に、くしゃくしゃに丸められた紙がころんと転がっていた。現代アートなのかな、と思ったが、次の日、テレビのニュースを見てびっくりした。自殺だったそうだ。

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禁(六井象)

観光名所の寺院の入り口で、俺だけ止められた。

「あなたは近いうちに人殺しになるから、ここには入らないでください」
 ツアーガイドは顔を引きつらせて、坊さんの言葉をそう訳した。

 俺は黙って、地元の不味い煙草を吸いながら、みんなの帰りを待っていた。
 近いうち。今日なのか、明日なのか。そんなことを考えていた。

 やがて寺院から低く、分厚い歌声が響いてきた。
 なぜか足の親指がむずむずした。

 野良犬が何匹も俺の前を横切っていった。
 みんな痩せていた。

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しおりひも(六井象)

いい本だった……とおもわずつぶやくと、本のしおりひもがまるで犬のしっぽみたいにじゃれてきた、いなかの図書館のよく陽のあたる席でのことだ、背表紙をなでてやるとペラペラと心地よい音をたててページがめくれた、借りて帰ろうと思ったが、よく見ると「貸出禁止」のスタンプがおされている、そういえば、こんなにいい本なのに、目立たない隅の棚の隅の場所にしまわれていたな、首をかしげていると、すぐ近くを通りかかった司書さんが「甘やかすとはしゃいで乱丁しちゃうんですよ」とそっと教えてくれた、なるほどそれなら仕方ない、なごりおしい気持ちで本を暗い棚の中へ戻す、しおりひもが指にからみつき、恋人とベッドの中で手をつないでいる時のように甘えてくる、ため息とともに司書さんがしおりひもを私の指からひき剥がしてくれる、図書館を出ると、いつの間にか夕方になっていた、いい本だった……と誰に言うでもなくつぶやいてみた。

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文芸サークル「鉄人四迷」の作品を公開しています。
小説・詩・脚本を中心に、月ごとのテーマ読み物など随時更新中。
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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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