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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「but Miranda will die, but」(空疎)

 あたしは友達からミランダって呼ばれてる。一応言っておくと、本名じゃない(本名はヨシコ)。なんでミランダなのかは長くなるから省略するけど、名付け親はこのあたし。あたし自らみんなにミランダって呼んでって言ったの。だからそれ以来、みんなあたしのことはミランダって呼んでくれてる。
 もうちょっとだけ自己紹介をしておくと、あたしは大学三年生。ひどい田舎の実家から出てきて、今は東京で一人暮らししてる。最初は興奮したわ、憧れの東京生活。だってあたしは高校に上がるまで、東京って架空の土地だと思ってたから。東京のあたし、ステキ!

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 あたしは友達からミランダって呼ばれてる。一応言っておくと、本名じゃない(本名はヨシコ)。なんでミランダなのかは長くなるから省略するけど、名付け親はこのあたし。あたし自らみんなにミランダって呼んでって言ったの。だからそれ以来、みんなあたしのことはミランダって呼んでくれてる。
 もうちょっとだけ自己紹介をしておくと、あたしは大学三年生。ひどい田舎の実家から出てきて、今は東京で一人暮らししてる。最初は興奮したわ、憧れの東京生活。だってあたしは高校に上がるまで、東京って架空の土地だと思ってたから。東京のあたし、ステキ!
 出てきて間もない頃なんか、街に外国人がいるってだけで戸惑ったものよ。スター・ウォーズを愛してるあたしにとって(ハン・ソロがステキ)、中学に上がるまで外国人イコール宇宙人だったから。それが今でも抜け切ってないから、かっこいい人を見かけると一瞬「なにあの人、コレリア人?」なんて考えが過ぎっちゃう。
 だけどそれも最初のうち。最近のあたしは東京を余裕の顔で闊歩しちゃってる。外国人を見かけてもどうってことないわ。だからこの間だって、前から外国人が歩いてきても、あたしはどうってことなかったの。
 たしか新宿駅東南口の階段のとこ、タワーレコードでなんかCDでも買おうかしらなんて考えながら階段を上ってると、ふたり連れの外国人が上から下りてきたの。パールジャム(あまり都会的じゃないかしら、でもTENが大好き)を愛聴してるあたしには、今さら外国人なんてなんてことないわ。あたしはお澄まし顔で、外国人とすれ違った。そしたらふと、ふたりの会話の切れっぱしが、耳に飛び込んできたの。

「………but Miranda will die……………」

 ミランダ? ミランダって言った? なんだか妙にその声は耳に残った。それであたし、一瞬ぼうっとしちゃって。ちょっと間をおいてから我に返ったあたしは、持てる英語力を振り絞って訳にかかったわ(ちなみにあたしは英語検定4級)。「but」は「しかし」とか「だけど」、「will」は未来とか意志、それから「die」は「死ぬ」、そして主語は「Miranda」、ミランダ。繋げてみると「だけど」「ミランダは」「死ぬ」?
 英語に自信はないけど、これくらいなら間違えない。「だけどミランダは死ぬ」それは明るい声だった。「死ぬ」だなんて暗い言葉を、あの人軽い調子で言ってたわ。あたしもちろんわかってた、あたしの話じゃないってことくらい。それなのにあたし、その声が頭から離れなくなっちゃって。タワーレコードに行くのも忘れて、ふらふらっと歩いてた。だけど、ミランダは、死ぬ。だけど、ミランダは、死ぬ……。ぼうっと歩くあたしを、不意にクラクションが引き戻した。気がつくと、あぁなんてこと、目の前には大きなトラックが迫ってた。
 やばい! 駆け巡る走馬灯、そうあれは入学して間もない頃、同じ学科のちょっと大人っぽい彼。まだまだ田舎娘だったあたしは勇気を振り絞って思いを告げた。そしたら彼は、半笑いで言ったのよ。「ごめん俺、嫁がいるんだ。有名だと思ってたけど、知らなかった?」大人っぽい彼は、ほんとに大人だった(三十二歳だった)。後日友達に確認したら、彼は実際有名だった。ついでにあたしも有名になっていた(好きになったあの人はクソ野郎でした、F**K!!)。
 今も忘れえぬあの半笑い、ちょっと待ってよ走馬灯、あたしの人生もっとマシなシーンがあったはず、あたしのステキショットは撮ってないの? 探してよもっと真面目にほらほらほら……。
「ミランダ、ねぇミランダ、大丈夫?」
 気がつくとあたし、道路の真ん中にしゃがみこんでた。目の前にはトラックのおじさんと、お友達のチアキちゃん。あれ、なんだったっけ?
「お姉ちゃん大丈夫かよ。あんた信号無視してふらふら出てくるから。頭でも打ったか」
「いえ、ごめんなさい、大丈夫です。ほんとに大丈夫」
 そうだ、あたしトラックにぶつかりそうになったんだった。ちょっと膝を擦りむいちゃったけど、あとは概ね無事。これ九死に一生、なんてことなかったわ。あたしはすっくと立ち上がって、おじさんとチアキちゃんに笑顔で無事をアッピール。よかったよかった、おじさん迷惑掛けちゃってごめんなさい。だけどそのとき。あの声がまた、聞こえたの。

「………but Miranda will die……………」

 え? 「だけど」「ミランダは」「死ぬ」? なになに、あたし無事じゃない。膝こそ擦りむきはしたものの、あとはまったく問題なし。あたしかんぺき大丈夫じゃない。なんだってまたそんなこと言うの? 「だけど」って何? 考えすぎだわ、あたしの話じゃないんだから。ほらね大丈夫大丈夫、あたしはほんとに大丈夫……。
「ミランダ、ほんとに大丈夫?」
「え?」
 顔を上げると、チアキちゃんが心配そうにあたしの顔を覗き込んでた。あたしったらどうしちゃったのかしら。やだわ変な声なんかにとりつかれちゃって。気にすることないわ。あたし元気なんだもの。
「ごめんチアキちゃん、あたしどうってことないよ」
「ほんと? なんか顔色悪いよ」
「急でびっくりしちゃったのよ。ちょっとぼうっとしてたかも。ありがとね」
「ならいいけど。ミランダ、そのワンピースすごいね」
 チアキちゃんはしょっちゅう話題が飛ぶ子。あたしどんなの着てたっけ? 自分の服に目をやると、あたしは一番お気に入りのワンピースを着てた。さすがチアキちゃん、いいセンスしてるわ。
「都会的でしょこれ」
「都会的っていうか、近未来的って感じ」
 これって褒められてるのかしら。わかんないけどチアキちゃんに言われると悪い気はしなかった。とりあえず常識人のあたしは、つっ立ったままだったおじさんにもう一度謝ってから、チアキちゃんと連れ立って歩き始めた。
「ねえ、チアキちゃんどっから出てきたの?」
「わたしはどっからも出てこないよ。ミランダが急に出てきてひかれそうになってたんじゃない」
「だけどチアキちゃん、近未来的ってつまりどういうこと?」
「そのワンピースみたいなのよ」
 チアキちゃんはフィーリングでしゃべるから、正直あたしにはよくわかんない。この子こそ近未来的だわ。それであたし何してたんだっけ。そうだ、タワレコ行くんだった。知らない間に関係ないとこまで来てたけど、あたしは目的地を思い出した。チアキちゃんもまだ心配だからってついてきてくれた。
「だけどチアキちゃん、タワレコに用事ある?」
「ないけど、あたしミランダ好きだからいいよ」
 なんていい子。パールジャムに理解がないのだけが玉にキズだわ。それであたしたちはなんやかんやおしゃべりしながら、タワレコに向かって歩いたわ。
「それでね、あたしは大きな鳥が好きなんだけど、この辺じゃカラスか鳩くらいしかいないでしょ。それがとても残念なの」
 そう言ってチアキちゃんは空を見上げた。なんの話か知らないけれど、チアキちゃんと話すのは楽しくていいわ。なんだか気持ちが軽くなる。そうしてあたしが適当に相づちを打っていると、突然チアキちゃんが大きな声を出した。
「ミランダ、危ない!」
 え、なに? あたしは声につられてチアキちゃんの視線を追う。見上げると目に入ったのはビルディングの開いた窓、落下するプランター、え、嘘でしょ? プランターはあたし目掛けてまっしぐら。
 やばい、再び駆け巡る走馬灯。そうあれは高二の夏の終わり、海で颯爽と泳ぐあたし。そうよ走馬灯、あたしが欲しいのはこういうのよ。あたし水泳は得意なの。波を分けすいすい泳いでいくあたし、待って、そう思い出した、夏の終わりの海は、クラゲでいっぱいだった。蘇る記憶、腫れ上がった体、なにも顔まで刺さなくたって。おかげで夏休み明けの一ヶ月、あたしのあだ名はクラゲだった。なんでよ、もっとマシなシーンはないの? なんなのよこれは、もっとよく探しなさいよほら、ほらほらほら……。
「ミランダ、ねぇミランダ、大丈夫?」
 気がつくとあたしはかんぺき無事、目の前でプランターが土とお花をぶちまけていた。頭の上からは「ごめんなさい」と叫ぶ声、あたしどうやら九死に一生、大丈夫みたい。
「危なかったね、ミランダ」
「あぁ、ほんと死ぬかと思った」
 死ぬかと思った? 自分の口から出た言葉にあたしちょっとびっくりした。何を大袈裟な、しょせんはただのプランター、当たったところでまさか死ぬことなんてないでしょう。だけどまた。あの声が、頭の中で響いたの。

「………but Miranda will die……………」

 え? だって、あたし無事じゃない。あなた、何を言ってるの? 今度は怪我ひとつないわ。ちょっと靴に土がついたくらい。だってあたし無事なんだから、何を言うのよ、何を言うのよ、変なこと言わないでよ……。
「ミランダ!」
 チアキちゃんの声で我に返った。チアキちゃんは心配そうにあたしを見てた。あぁいやだ、あたしったらほんとどうしちゃったのかしら。こんなのあたしらしくないわ。何よあんな通りすがりの声を気にするなんて。心配させてごめんね、チアキちゃん。
「ごめん、大丈夫。ちょっとびっくりしてぼうっとしちゃった」
「それならいいけど、さっきからミランダちょっとおかしいよ」
「なんだろ、今日はついてないのかな。でも大丈夫、あたし元気だよ」
 そう言ってあたしはチアキちゃんに笑顔を向けた。それからビルの窓から顔を出すあの人に、手を振り無事をアッピール。そうよあたし元気なんだから。元気なんだから。どうってことないんだから。
「ミランダ、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
「大丈夫よ大丈夫。ほら、早く行こう。日が暮れちゃうよ」
 チアキちゃんはちょっと納得いかなげだったけど、あたしたちはまた歩き始めた。歩くうちにほらタワレコはもうすぐそこ。この階段を上ればもう入り口は間近。もう危ないことなんて起こりっこないわ。
「だからあたしチョコレートは好きなの。だけど最近見かけないよね、あのすごく苦いチョコレート」
 この子はほんと、なんの話がしたいのかわかんないわ。あたしはまた適当に相づちを打ちながら聞いてたの。そしたら不意に、あたしの体はバランスをなくしたの。目に入ったのは空き缶を踏む自分の足、そして迫り来るコンクリートの階段。
「ミランダ、危ない!」
 転んだ! うそ、もう二一才なのに? だけど地球の重力は容赦なくあたしを引きつける。やばい、もう目の前にはコンクリート製の段差、駆け巡る走馬灯。そうあれは中二の冬、年中温暖なあたしの田舎に雪が降った。初めての積雪に大はしゃぎのあたし、浮かれてカマクラを作ったわ。中は不思議とあったかくって、なんて幸せなこの時間、だけどそう思ったのもつかの間、あたしの作ったカマクラはグシャリ崩れ落ちた。雪に埋もれるあたし、何もかもが悲しくて大泣きしたわ。あぁあたしの記憶こんなのばっかり、マシなシーンなんてないんだわ。ろくなことのないあたしの人生、いくら走馬灯が巡っても蘇るのは不幸な記憶。ねぇお願いだから見つけてよ、あたしの輝かしい姿、ほら、ほら、ほら……
「ねぇミランダ、どいて!」
 気がつくとあたしは、人でごった返す階段の真ん中で、チアキちゃんに覆いかぶさってた。あたしに傷ひとつなし。持つべきものはやはり友達、チアキちゃんは体をはってあたしをかばってくれてた。あぁやっぱり九死に一生、助かったじゃない。
「ありがとう、ごめんね」
 そう言いながらあたしは立ち上がった。ほんとありがとうチアキちゃん、あたしなんかをかばってくれて。幸いチアキちゃんも傷ひとつなし、あたしたちは二人ともすっかり無事だった。だけど不思議と晴れないあたしの気分。膨れあがる悪い予感。そしてやっぱり、またあの声が。あたしの頭の中で響いたの。

「………but Miranda will die……………」

 そればかりがあたしの頭をぐるぐる回った。but Miranda will die, but Miranda will die, but Miranda will die. 繰り返し聞こえるあの声、なんだか目まで回ってきた。あたしでも、生きてるじゃない。元気に生きてるじゃない。それでも聞こえてくるあの声、but Miranda will die, but Miranda will die, but Miranda will die.声は頭から離れない。もう嫌だ、嫌だ、嫌だ、あたしなんだかイライラしてきた。もう、もう、
「あぁあ、もう!!」
 あたしは人で溢れる階段の真ん中で、大声を出した。だけどミランダは死ぬ、だからなんだって言うのよ! あたし完全に頭にきちゃった。あたし生きてるじゃない! 元気に生きてるじゃない! but Miranda will die , but
「but , I'm living now ! !」
 だからなんだって言うのよ! あたし今生きてるわ。ほら、ろくでもない記憶しかなくたって、あたし生きてるわ! 英検四級のあたし、大声で叫んだ。叫んでやった。そしたらなんかとっても、気分がよくなった。なによあんなF**kin コレリアン! あたし空を覆う雲を蹴散らして、太陽を引っ張り出してやったみたいな感じがした。あぁなんていい気持ち!
「ミランダ急にどうしたの?」
「どうもしないよ、なんでもない!」
 チアキちゃんはちょっと心配そうだったけど、あたしはほんと気分が良かった。あたし幸せだわ。幸せに生きていくわ。それからあたしは、軽い足取りで階段を上って、目指すタワーレコードへ。なんだか何もかもうまくいくような気がした。うきうきしながら、あたしは大好きなパールジャムのCDを買ったわ。ベルリンでやったライブのヤツ。付き合ってくれてありがとうチアキちゃん、愛してるわ。嫌なこといっぱいあるけど、あたし生きてるんだもの。生きてるんだもの。なんだってうまくやっていけるわ。あたし、ALIVE!!


お し ま い!

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


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短編脚本「お父さん」より

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