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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「宇宙の果てまでヒッチハイク」(金魚風船)

テーマ:空の魚



●ある郊外の一本道。

一台の車が走って来る。車には一人の男。

その時、フロントガラスの先にまだ幼い一人の少女が手を上げて立っているのが見える。

男、そのまま走り抜けようとするがブレーキをかける。窓から顔を出す男。



「……」


黙ったまま立っている少女。



「どうしたの?」

少女
「ヒッチハイク」

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●ある郊外の一本道。

一台の車が走って来る。車には一人の男。

その時、フロントガラスの先にまだ幼い一人の少女が手を上げて立っているのが見える。

男、そのまま走り抜けようとするがブレーキをかける。窓から顔を出す男。



「……」


黙ったまま立っている少女。



「どうしたの?」

少女
「ヒッチハイク」


「君が?」

少女
「うん」


「そう」

少女
「……」


「……乗る?」


少女、頷くと駆け足で後部座席に乗る。


少女
「ありがとう」


「何処に行きたいの?」

少女
「お兄さんは何処に行くの?」


「君は何処に行きたいの? 連れてってあげるから」

少女
「何処でも。お兄さんは何処に行くつもりなの?」


「俺は何処にも行かないよ」

少女
「何処にも行かないのに、車で走ってるの?」


「家出?」

少女
「うん。家出」


「お父さんとお母さんは? 心配するよ」

少女
「良いの、別に」


「そう。ガソリンスタンド寄って良い?」

少女
「良いよ」


●セルフのガソリンスタンド。

男はガソリンを入れ終え、汗を拭いている。少女は近くの歩道でブラブラしている。


少女
「暑い」


「暑いね」

少女
「もう終わった?」


「終わったよ」

少女
「了解」


「名前、何て言うの?」

少女
「みき」


「年は?」

少女
「十一」


「十一か」

少女
「お兄さんは?」


「うん?」

少女
「名前」


「ああ……高志」

少女
「タカシね。……暑い」


「暑いね」

少女
「うん」


「行く?」

少女
「はい」


●車内。

景色が少しずつ栄えてくる。


少女
「タカシー、窓開けて良い?」


「良いよ」


男、クーラーを切る。


少女
「風って涼しいね」


「涼しいね」

少女
「私、クーラーの風って嫌い」


「確かに人工的な感じがするもんね」

少女
「ゲロ出ちゃう」


「ゲロ出ちゃうの?」

少女
「おえー」


「(少し笑う)」

少女
「ここ何処?」


「大津市」

少女
「オオツシ?」


「滋賀県」

少女
「滋賀県……ビワコの?」


「うん。行ってみる?」

少女
「近いの?」


「うん、わりかし」

少女
「じゃあ、良いや」


「なんで?」

少女
「また今度で良い」


「近いのは嫌い?」

少女
「ううん。でも、今は遠くに行きたい」


「変な子だね」

少女
「変じゃないし」


「変だよ」

少女
「変じゃないって。お腹空いた」


「なんか食べる?」

少女
「あそこで良い」


「うん」


●駐車場。

車が一角に止まる。


●ファミレスの店内。

少女
「いや、涼しいね」


「クーラー、ガンガンに効いてるからね」

少女
「文明の力だね」


「さっき嫌いって言ったじゃん」

少女
「ファミレスは別」


「ゲロ出ちゃうんでしょ?」

少女
「出して欲しい?」


「結構です」

少女
「嘘だよ」


「分かってるよ。でも、よく知ってるね、文明の力なんて言葉」

少女
「おばあちゃんがよく言うから」


店員がやってくる。


店員
「こちら、イチゴパフェとチョコレートパフェになります」


「ありがとうございます」

少女
「ありがとうございます」


店員、去る。



「おばあちゃん心配してない?」

少女
「大丈夫。おばあちゃんには言ったから」


「家出するって?」

少女
「うん」


「おばあちゃん、良いって言ったの?」

少女
「ううん、やめとけって。心配するから」


「うん」

少女
「また家族で遠くに旅行しようねって」


「そうなんだ」

少女
「何にも分かってない」


「おばあちゃんが?」

少女
「おばあちゃんが、って言うよりは皆」


「君のことを?」

少女
「うん、お父さんもお母さんも」


「友達も?」

少女
「友達いないけど、多分そう」


「何を?」

少女
「え?」


「何を分かってないの?」

少女
「……色々」


「色々ね」

少女
「はい、私の質問お終い。次、タカシの番。タカシ、何してるの?」


「内緒」

少女
「えーずるい」


「パフェ溶けるよ」

少女
「後で絶対教えてもらうから」


「好きにしなよ」


●車の中。

少女
「ねぇ、教えてよ」


「なんで?」

少女
「気になるから」


「僕が何してるか?」

少女
「うん、タカシが何してるか」


「普通だよ」

少女
「じゃあ、教えてよ」


「……まぁ大道芸人みたいな」

少女
「ダイドウゲイニン?」


「うん、道で色々する」

少女
「色々って」


「ボールを投げたり」

少女
「道で?」


「うん」

少女
「え、やって」


「やだ」

少女
「なんで、良いじゃん。やってよ」


「嫌だ、絶対やらない」

少女
「……ケチ」


下を向く少女。しばしの沈黙。男、ポケットから赤い球を三つ持つと片方の手をハンドルから離し、ジャグリングをする。



「ほら」

少女
「うわ、凄い!」


「みたいなね」

少女
「え、もっともっと」


「駄目、おまわりさんに見つかったら捕まっちゃうから」

少女
「でも凄いね、タカシ」


「別に」

少女
「そんなことないよ。凄かった」


「凄くない。こんなこと位はね、誰でも練習したら出来るようになるの」

少女
「私出来ないよ」


「出来るようになるよ」

少女
「えー出来ない」


「上には上がいるんだ」

少女
「……そうなんだ」


「車止めて良い? 少し休みたい」

少女
「さっきファミレス行ったじゃん」


「君と喋ってたら、あんまり休まらなかった」

少女
「何それ、ひどい」


「とにかく、ちょっと止まって良い?」

少女
「良いよ」


車道の横脇に車が止まる。二人、車から出てくる。


少女
「うわ、海だよ」


「大きいね」

少女
「ビワコ行かなくて良かったね」


「ビワコも凄い大きいよ」

少女
「でも海よりは小さいでしょ?」


「それはそうだけど」

少女
「海の近く行きたい」


「うん」


●浜辺。

波の満ち引きで遊ぶ少女。その、少し後ろでそれを見ている男。日はかなり傾き始めている。


少女
「ギャハハハ、タカシ凄いよ」


「何が?」

少女
「波が」


「楽しい?」

少女
「うん、タカシも一緒にやろうよ」


「何を?」

少女
「波から逃げるの」


「俺はいいよ」

少女
「なんで?」


「ちょっと疲れたから」

少女
「やろうよ」


「いいって」

少女「やろう!」


少女、男の元に向かい、浜辺まで手を引いていく。

波が寄せては近づき、引いては逃げる少女。

男もそれとなく付き合う。


少女
「どう? 楽しい?」


「うん、まぁ」

少女
「ね」


「案外いけるね」


突然、立ち止まる男。波が男の足元を覆っていく。


少女
「あ、タカシ失格」


「……」

少女
「……どうしたの?」


「……楽しいね」

少女
「……うん」


「行こう」

少女
「……はい」


●車内。

もう辺りは暗くなっている。


少女
「今日、どうする?」


「どうしよう? 家まで送ろうか」

少女
「そういうことじゃない」


「どういうこと?」

少女
「何処に泊まるかって話でしょ」


「帰らなくて良いの?」

少女
「そんな気持ちなら、初めから家出なんてしていません」


「変な子だね」

少女
「変な子です」


「(笑う)」

少女
「ここ何処?」


「わかんない」


少女、嬉しそうに笑う。


少女
「やっぱり車か」


キャンプ場の看板が目に飛び込んでくる。



「キャンプする」

少女
「ほんとに!?」


「うん」

少女
「テントは?」


男、トランクを指さす。


少女をそれを確認すると、満面の笑みになる。


●キャンプ場。

男がテントを悪戦苦闘しながら組み立てている。


少女
「タカシ、まだ?」


「もう少し待って」

少女
「さっきから、そればっかりでしょ」


「それが思ったより、難しいんだ」

少女
「テント作ったことないの? タカシ、それでも大道芸人?」


「大道芸人は別に万能ではないんだ」

少女
「片手で球、回せるのに?」


「うるさいなぁー少し静かにしてくれ」

少女
「はぁ……お腹減ったな」


「……出来た!」

少女
「ほんと!?」


少女の視線の先には、歪に崩れ今にも壊れそうなテント。



「どうかな……」


少女、苦笑い。


●キャンプファイヤー

少女
「おー凄い! 燃えるね!」


「想像以上だね」

少女
「私、キャンプファイヤー初めて」


「ほんとはもっと大勢でやるんだけど」

少女
「大勢だったら、もっと楽しい?」


「そうでも……ないかな」

少女
「そうなの? 大勢の方が楽しそうなのに」


「普通はね。でも、僕はそうじゃなかった」

少女
「ふーん、タカシも変わってるね」


「ただの嫉妬だよ」

少女
「え?」


「僕は輝けなかったんだ」

少女
「輝けなかったって?」


「だって、皆凄い楽しそうなんだもん。それが僕にはとても滑稽に見えてね」

少女
「滑稽……」


「だから大道芸人になることにした」

少女
「滑稽に見えたから、大道芸人をしてるの?」


「うん。不思議でしょ?」

少女
「でも、なんか分かる気がする」


「でもね、それは大きな間違いなんだ」

少女
「?」


「何かを楽しめない者はね、人を楽しませることは出来ない」

少女
「何かを楽しめない者は、人を楽しませることは出来ない……」


「それを何処かで失ってしまったような気もするし、初めから持ってなかった気もする」

少女
「……」


「でもね、今日君と波で遊んだ時、少し思ったんだ。僕は、持ってなかった訳ではない。どこかで忘れてしまっているだけなんだって」

少女
「そっかぁ」


「……そう思いたいんだ」

少女
「タカシ?」


「うん?」

少女
「今、楽しい?」


「ちょっと」

少女
「じゃあ、大丈夫」


「ありがとう」

少女
「赤いなぁ」


「赤いね」


●テントの中。

少女
「今日は色々ありましたね」


「そうかな。ほとんど車の中だったじゃないか」

少女
「海に行った。それからファミレスも」


「そんなの簡単に出来るよ」

少女
「ううん、それが中々難しいの」


「そうなんだ」

少女
「早く大人になりたいな」


「なんで?」

少女
「自由だから。自分の行きたい場所に行きたい時に行ける。食べたい食べ物も食べる。凄い自由」


「それがそうでもないんだな」

少女
「どういうこと?」


「君は……ミキはね、今たくさんのものに守られてるんだ。お父さんだったり、お母さんだったり」

少女
「そんなことない。お父さんもお母さんも何もしてくれない。何も分かってくれない」


「僕もミキぐらい時、いつもそう思ってた。どうしてお父さんもお母さんも、僕に何もしてくれないんだろうって。でもね」

少女
「でも?」


「外の世界に出ると分かると思うんだ。自由ってものは空みたいに綺麗な色をしているものではなく、辺り一面を覆う灰色の茨の世界だって。そして、その茨は君に容赦なく襲い掛かる。疲れ果てたミキは、思わず自分の来た道を振り返ってしまう。するとね、そこには小さく点滅する蛍みたいな光が見えると思うんだ」

少女
「蛍……」


「その光の中は実はミキが今までいた世界であり、それが微かに光るのはミキのお父さんとお母さんが必死でその茨とぶつかり合って出る火花なんだ」

少女
「……」


「もし機会があれば、注意深く見てご覧。どんなに平気な顔をしていても、二人の身体は傷だらけだと思うよ」

少女
「そっかぁ……」


「ごめんね。でも、そうなんだ」

少女
「うん。じゃあ、次は私がお話してあげる」


「それは興味深い」

少女
「ある所に一匹の魚がいました。魚にはある夢があります。それは少しでも外の世界を見ること、少しでもたくさんのお話を覚えることでした。魚は、海の世界をむさぼるように駆け巡りました。そこにも、たくさんの世界やお話があります。でも、その大半は魚が想像した通りです。魚はふと上を見上げました。そこにはキラキラ光る太陽があります。魚はその太陽の世界に行きたいと思いました。しかし、周りは猛反対。『外の世界は危険だ、君を深く傷つけるものでいっぱいである。例えば、鳥や人間……』と脅します。でも、それ以上具体的なものは出てきません。それ以上のことを聞くと他の魚は沈黙し、思考を止めます。魚はその疑問に立ち向かうべく、ある夜ある計画を決行することにしたのです」


「どんな計画?」

少女
「ちょっと休ませて」


「うん」

少女
「はい、宇宙に行くことです」


「宇宙に?」

少女
「魚は海の一番底まで潜ると、そこから力の限り全速力で上に駆け上がりました。スピードはグングン上がり、水面は近づいてきます。そして……水面を突っ切るとそのまま空を駆け上がりました。どんどんどんどん。そして、そのままタイキケンも突き破り、遂に宇宙に辿り着いたのです。宇宙には、たくさんの星があります。あの太陽さんとお月様もいます。そして、魚はそこで星たちにたくさんの話を聞き、宇宙一物知りな魚になりましたとさ」


「え、お終り?」

少女
「うん、お終り。もう少し、詳しく話したかったけど、おおざっぱに言うとこんな感じ」


「ふーん」

少女
「どう?」


「理想論だよ。第一、魚は陸で息は出来ない」

少女
「そこはお話だもん」


「それに、その魚もいつかは気づく。海の世界がどれだけ自分を大切にしてくれていたかって」

少女
「でも、どっちの方が、夢がある?」


「え?」

少女
「どっちのお話の方が人を楽しませることが出来る?」


「いや、僕の話も良い話だ。……親思いの」

少女
「でも、なんだか悲しい」


「ミキは分かってないんだ」

少女
「タカシがどう思うかはどっちでも良い。でも、私は私の話の方が好き」


「そう。もう寝ようか」

少女
「うん」


●朝。車の中。

少女
「……昨日のこと怒ってる?」


「何が?」

少女
「タカシのお話を否定したこと」


「別に。もう忘れたよ」

少女
「そっか」


丘が見える。

少女
「あの丘に行きたい」


「丘?」

少女
「うん!」


「分かった」


●丘の上。

少女が一人で踊っている。


少女
「これ、一人で覚えたんだよ」


「凄いね」

少女
「一緒に踊ろ」


「嫌だ」

少女
「またそうやって。誰も見てないから。絶対楽しい」


少女、そう言って男の手を取る。



「もう……」


二人で踊る。男の踊りはどことなくぎこちない。


少女
「ほら、楽しいでしょ?」


「楽しくない」

少女
「踊るのは初めて?」


「初めて」

少女
「ダイドウゲイニンなのに?」


「僕は駄目な大道芸人なんだ」

少女
「でも、私は楽しいよ」


「そう」

少女
「今、ちょっと笑ったでしょ?」


「笑ってないよ」

少女
「笑ったし」


「笑ってない」

少女
「タカシはまだ進めるんだよ」


「……」

少女
「まだ全然、間に合うんだよ」


「うん……」


●車内。

少女
「次はどこに行きますか?」


「ほんとに帰らなくて良いの?」

少女
「良いの、私は宇宙を空飛ぶ魚なのです」


「また変なことを……」

少女
「大丈夫、いつか必ず振り返るから。でも、今はまだまだ飛びたいのです」


「そっかぁ」

少女
「出発!」


(笑って)「うん」


終わり。

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


---------------------------

金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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