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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「Yesterday」(I)

テーマ:壊れた椅子



1.公園(夜)

市街地の公園。
噴水や花壇が色とりどりにライトアップされている。
華やかな格好の男女が散歩を楽しんでいる。

広場の隅。
電球が切れかけている外灯の下に、曲芸師の「タケ」が立っている。
タケの周りには数人の客がいる。
タケは大仰な動作で長い剣を取り出し、おもむろにそれを飲み込む。
客たちは肩をすくめ、タケの周りから立ち去る。
タケ、剣を飲み込んだまま固まっている。
足元の缶には小銭一つ入っていない。

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1.公園(夜)

市街地の公園。
噴水や花壇が色とりどりにライトアップされている。
華やかな格好の男女が散歩を楽しんでいる。

広場の隅。
電球が切れかけている外灯の下に、曲芸師の「タケ」が立っている。
タケの周りには数人の客がいる。
タケは大仰な動作で長い剣を取り出し、おもむろにそれを飲み込む。
客たちは肩をすくめ、タケの周りから立ち去る。
タケ、剣を飲み込んだまま固まっている。
足元の缶には小銭一つ入っていない。


2.タケの家・リビング(夜)

ボロアパートの一室。
床に空っぽの缶が置かれ、それを挟んでタケと妻の「リリー」が座っている。
リリーの腹は大きい。


リリー
「タケ」

タケ
「はい」

リリー
「何なのこのざまは」

タケ
「……頑張ってはいるんだ」

リリー
「そんなことは聞いてないわ。タケ、あんたの肩書きは何?」

タケ
「きょ、きょ、曲芸師だよ」

リリー
「曲芸師ってのは、何をどうする仕事なの?」

タケ
「きょ、曲芸を、お客様に、お見せする、仕事だよ」

リリー
「それだけ?」

タケ
「……お客様から、お金を、いただく、仕事だよ……」

リリー
「そこまでわかってるのに、タケ、何なのこのざまは」

タケ
「……明日は必ず……」

リリー
「いまどき流行らないのよ、剣を飲み込むだけの芸なんて」

タケ
「そ、それだって、り、立派な芸だろ!」

リリー
「そんな話はしてないのよ! ……ねぇ、もういい加減まともな仕事についてよ。じきに貯金も底を尽くわ」

タケ
「……俺にはこれしかないんだ。そして、これはお金の問題じゃないんだ。わかってくれリリー。いつか一流の曲芸師になって、大きな劇場でたくさんのお客を感動と驚きで……」


リリー、タケの顔をしげしげと覗き込む。


リリー
「……タケ、あんたそれ本気で言ってんの? 本気だとしたらあんた終わってる。完全に終わってる」

タケ
「じょ、冗談だよ、もちろん」

リリー
「だとしたら面白くない。全然面白くない」

タケ
「頼む! 明日、明日一銭も稼げなかったら、きっぱり足を洗う! だから、もう一度だけチャンスをくれ!」

リリー
「いいわよ」

タケ
「ほ、本当か!」

リリー
「明日よ! 明日ダメだったら、即離婚だからね!」

タケ
「そ、そんな……だって子供も生まれてくるのに……」

リリー
「この子には父親は死んだって教えるから安心して。明日よ。明日結果を出さなかったら実家に帰るわ。それから裁判でも何でも起こして、慰謝料ふんだくれるだけふんだくってやるからね。いい? 明日よ、明日。それ以上は一秒たりとも待たない」


リリー、腹をかばうようにして立ち上がり、部屋から去る。


3.公園(深夜)

人気のいない公園を一人歩いているタケ。
時々髪をかきむしったり、爪を噛んだりしている。
と、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
声の方に振り向くタケ。
外灯の下に、小さな影が見える。
タケが近づくと、薄暗い灯りの下に、一脚の椅子が置かれてあり、その上で裸の赤ん坊が泣きじゃくっている。
恐る恐る赤ん坊を抱きかかえるタケ。
辺りを見回すが人影一つ見えない。
タケ、赤ん坊の顔を見て、しばらく悩んだのち、


タケ
「……ごめん……」


と、椅子に戻そうとする。
その瞬間、椅子の脚がひとりでに折れる。
驚くタケ。
その目の前で、みるみるうちにバラバラに壊れてしまう椅子。
立ちすくんだまま動けないタケ。
と、赤ん坊が無邪気な笑い声をあげる。


タケ
「け、警察……」


タケ、電話ボックスに近づく。
しかし、小銭がないことに気づく。
仕方なく歩き始めるタケ。
と、ホームレスが前から近づいてくる。
思わず赤ん坊をコートの中に隠すタケ。
ホームレスは首から携帯ラジオをぶら下げている。
すれ違い様に、ラジオの音声がタケの耳に入ってくる。


ラジオの声
「先ほどからお伝えしております通り、2時間ほど前、××病院の新生児室から新生児一人が何者かによって連れ去られた事件を受け、警察は現在、人数を増員して周辺地域をパトロールしています……」


赤ん坊を抱えたままへたり込んでしまうタケ。
と、赤ん坊が再びぐずり出す。
すれ違ったホームレスがタケを振り返る。
タケの目には涙がたまっている。
不審な顔のホームレスがタケに近づいてくる。
タケ、咄嗟に大口を開け、赤ん坊を懐から取り出すと、そのまま丸呑みしてしまう。
タケの腹が大きく膨れ、火がついたような泣き声が腹から響いてくるが、やがてそれも消えてしまう。
ホームレス、目を見開いて呆然とタケを見ている。
タケ、虚空を見つめてただただ立ち尽くしている。
と、ホームレスが力一杯拍手をする。
びくりとするタケ。
ホームレス、頬を紅潮させ、興奮した様子でタケに話しかける。


ホームレス
「何だ、何だい今のは!? すげえ! あんなの初めて見た! あんた何者だ!? 俺はずいぶん長く生きてきたが、あんな芸は初めて見た! 感動した! 鳥肌が収まらねえ! あんた……あんた、何者なんだ!?」

タケ
「え……」


ホームレス、ポケットから小銭をじゃらじゃら取り出し、タケの手に握らせる。


ホームレス
「少ないが、いや、ほんとに少ないんだが、頼む、取っておいてくれ! 本当はもっと払いたいくらいだよ! あんたすげえよ! あんたみたいなのを、本当の芸人って言うんだ! あんな芸を見られるなんて、ほんと生きててよかったよ! すげえ……すげえよ!」


タケ、手の中の小銭を見つめながら、自分の腹をさする。


タケ
「そんなに……すごかったですか」

ホームレス
「ああ! できればもう一度見たいくらいだ! そうだ、俺の知り合いにな、牧師がいるんだが、教会の前によく捨て子が捨てられているらしいんだ。今度そいつに話をつけて、譲ってもらうからよ、そしたらまた……」

タケ
「いえ、ちょっと待っててください! すぐにお見せします!」


タケ、満面の笑みで走り去る。


4.タケの家・寝室(明け方)

ベッドでリリーがすやすや眠っている。
タケが現れ、布団をめくる。
リリーの丸々とした腹が見える。
タケの手に、包丁が握られている。
タケが包丁を振りかざす。
ポケットの中の小銭が、かすかに音を立てる。


5.公園(明け方)

外灯の下に、壊れたはずの椅子が元通りで置かれている。



<了>

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空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
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あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


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美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
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 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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