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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

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「SF(と恋)<後編>」(I)

3


昨夜のマリたち。
人形劇のセットは片付けられ、大柄な女性が子どもたちを抱きしめながら、椅子に座っている。
顔は相変わらず暗がりで見えない。

子どもたちはみな安らかな顔をしている。

女性が、澄んだ声で語り始める。

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3


昨夜のマリたち。
人形劇のセットは片付けられ、大柄な女性が子どもたちを抱きしめながら、椅子に座っている。
顔は相変わらず暗がりで見えない。

子どもたちはみな安らかな顔をしている。

女性が、澄んだ声で語り始める。


女性
「かわいくてやさしい子どもたち。あなたたちはこれから、たくさんの悲しい出来事に出会うことでしょう。親にぶたれて死んでいく子どもたちや、追い詰められているのに平気な顔をしなければならない女たちのことを知るでしょう。そしてそれらに光を当てる、太陽や月のことを知るでしょう。しかし、その光に惑わされてはいけません。その光は、丈高い草の中で寝返りを打ち、望遠鏡を覗き込みながら、服を汚さず議論に参加する、そんな人々のために用意された光なのです。北風に背を向ければ、おしまいまで笑っていられる、そんなことを信じている人々のために用意された光なのです。その光はあまりにも眩しくて、あたたかくて、あなたたちをやさしく慰めてくれることでしょう。あなたたちが恋をするとき、教育に精を出すとき、鍵を探すとき、覚めそうで覚めない昨日に会いに行こうと駆け出すとき、太陽と月は囁きかけてくることでしょう。結構だね、悲観してはいけないよ、やるせなくても、明日は来るのだから。しかし、その言葉に惑わされてはいけません。その言葉は、本当に伝えたいことを伝えるための言葉を、忘れてしまった人たちのために用意された言葉なのです。かわいくてやさしい子どもたち。太陽はぼんくらで、月はちゃらんぽらんです。彼らが光を当てるとき、そこに影が生まれることを、彼らは忘れているのです。かわいくてやさしい子どもたちよ。未来への手土産を探しなさい。右往左往しなさい。ささいな言葉さえ、思い通りにできないことを知りなさい。理解できないことや、愛せない者を、笑い飛ばす勇気を持つことを、恐れないで、生きなさい。子どもたちよ」


マリ、なぜか胸の鼓動が落ち着かない。


----------


マリ
「……そんなようなことを言ってた気がする」

シュンタロウ
「……頑張れば、死刑じゃなくなるってことだよね」

マリ
「わ、わかんないよ? 言ってた気がする、ってだけだし……」

シュンタロウ
「でも、頑張るよ、俺!」

マリ
「どうすんの?」

シュンタロウ
「え? ……えーと、だから、20歳になったら、お酒飲まないし、車にも乗らないようにすれば、いい……んじゃない?」

マリ
「……それだけ?」

シュンタロウ
「あ、あと変な女の人を好きにならない」

マリ
「できるの?」

シュンタロウ
「頑張るよ!」

マリ
「……シュンちゃん、根性ないからムリだよ」

シュンタロウ
「できるよ!」

マリ
「誰かがいっしょに見ててあげなきゃだめなんじゃない?」

シュンタロウ
「え、う、うー、一人で大丈夫だよ!」

マリ
「どうかな……」


おじさんは身を乗り出してニヤニヤと二人を見ている。


シュンタロウ
「それ、どういう意味だよー」

マリ
「シュンちゃんヘタレだもん」

シュンタロウ
「ヘタレじゃないよ」

マリ
「シュンちゃんが……」

シュンタロウ
「……何?」

マリ
「シュンちゃんが、ヘタレじゃなくなるように私が傍にいてあげるよ!」

シュンタロウ
「え……」

マリ
「うん……」

シュンタロウ
「……」

マリ
「……ね?」

シュンタロウ
「……えー? いいよ! 大丈夫だよ! マリちゃん……」


おじさんが手を叩いて喜び始める。


シュンタロウ
(おじさんの異変に気づき)「……何?」

マリ
「わかんない……」

シュンタロウ
「おなかすいたの?」

マリ
「すごい、超こっち見てるね」

シュンタロウ
「うん……」

マリ
「で、何?」

シュンタロウ
「え?」

マリ
「何か言いかけたでしょ」

シュンタロウ
「あ、あー、えーと、あの……あ、マリちゃんおせっかいだよ!」

マリ
「えー? おせっかいしたくなるんだもん、シュンちゃん」

シュンタロウ
「だから、何だよそれー?」

マリ
「何だろうねー!」

シュンタロウ
「何だよ!」

マリ
「知らなーい!」

シュンタロウ
「マリちゃん、おれのことバカにするなよ!」

マリ
「バカになんてしてませんよー」

シュンタロウ
「してるよー!」

マリ
「ははは」

シュンタロウ
「何だよー」


おじさんがケージの壁や床をどんどんと叩く。
何かを煽っているようにも見える。


シュンタロウ
「……どうしたんだろ?」

マリ
(おじさんに)「どうしたのー?」

シュンタロウ
(からかうように)「マリちゃんがママのとこ行ったりするから怒ってるんだよー」

マリ
「バカッ!」

シュンタロウ
「あ……」


すべての音が止み、静まり返る教室。
間。
と、窓の外から、警官の足音が近づいてくる。

泣きそうな顔のシュンタロウ。
マリ、頭をぶんぶんと振り、小さなおじさんをわしづかみにして身構える。

窓の外に笑顔の警官が現れる。


警官
「君たち……」


その瞬間、警官目がけて小さなおじさんを投げるマリ。


警官
「うわっ!」

マリ
「あーっ! そっち行ったーっ! おじさん、その子捕まえて!」

警官
「え、あ、ああ」


警官の股の下をくぐり、脱兎のごとく駆け出していく小さなおじさん。
慌てて追いかける警官。

その隙にシュンタロウの手を引き、教室を飛び出すマリ。


シュンタロウ
「待って、カバン……」

マリ
「もう!」


シュンタロウのカバンを掴み、駆け出していくマリ。
手を引かれながら、必死に走るシュンタロウ。

窓の外に、小さなおじさんを手に持った警官が現れる。


警官
「捕まえたぞ……あれ?」


誰もいない教室。


----------


商店街。
息を切らせたマリとシュンタロウ。


マリ
(声を潜め)「……シュンちゃん、バカ! 気をつけてよ!」

シュンタロウ
(ほとんど聞き取れないほどの声量で)「ごめんなさい……」


マリ、周りを慎重に見回し、すぐにほっとした顔になる。


マリ
「ほんと、シュンちゃん、バカ」

シュンタロウ
「ごめん、ごめんね、マリちゃん……ごめん……」

マリ
「……いいよ、大丈夫みたいだし。……帰ろうか」

シュンタロウ
「……そうだね」

マリ
「アイスおごってよ」

シュンタロウ
「え」

マリ
(シュンタロウをじっとにらみつける)「……怖い思いさせたくせに……」

シュンタロウ
「うー……」

マリ
「しかも女の子に……」

シュンタロウ
「わかったよー……」

マリ
「ありがとー! ハーゲンダッツね」

シュンタロウ
「そんなお金ないよー」

マリ
「つべこべ言わないの」


と、シュンタロウふと立ち止まり、


シュンタロウ
「……あれっ? ちょっと待って」

マリ
「……何?」

シュンタロウ
「あのさ……あ、えーと」


と、シュンタロウ、マリに耳打ち。


シュンタロウ
「あのさ……」

マリ
「な、何? くすぐったい……」

シュンタロウ
「マリちゃんがママのとこ行ったのに、何で僕のことが出てきたの?」

マリ
「……」

シュンタロウ
「……マリちゃん?」

マリ
「知らない!」


と、シュンタロウを突き飛ばし、歩き去るマリ。
困惑した顔で後を追いかけるシュンタロウ。


シュンタロウ
「マリちゃーん!」


魚屋の店先で、小さなおばさんと小さな髭の女が寄り添って眠っている。


----------


ケージに寝転び、ニヤニヤしながら本を読んでいる小さなおじさん。
ふと顔を上げ、教室の窓が開きっぱなしになっていることに気づき、自らケージの蓋を開け、窓を閉めに行く。
夏の風が途切れる。


<了>

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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姉妹は仲の悪いまま年老いて
 町は背を伸ばし肥え太る
幾度かの通夜と性交を経て
 雪は降らなくなった
生まれた家は駅に食われたが
 風は相変わらず強く吹いている
姉妹は仲の悪いまま年老いたが
 市長に品が無い
 という意見だけは一致している


「姉妹は」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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