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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

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「革命 at 教室」(空疎)

テーマ:教室



 人気のない教室に、王様は一人でいた。王様はパイプ椅子に座り、教卓に頬杖をついて、誰もいない静かな教室を眺めていた。王様の前には、無人の机と椅子だけが、整然と並んでいた。
 王様がつまらなさそうな顔をしてぼうっとしていると、廊下から高い足音が聞こえてきた。足音はだんだんと王様のいる教室に近づいてきたかと思うと、がらりと扉が開いた。
「陛下、まだこのような所にいたのですか」

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 人気のない教室に、王様は一人でいた。王様はパイプ椅子に座り、教卓に頬杖をついて、誰もいない静かな教室を眺めていた。王様の前には、無人の机と椅子だけが、整然と並んでいた。
 王様がつまらなさそうな顔をしてぼうっとしていると、廊下から高い足音が聞こえてきた。足音はだんだんと王様のいる教室に近づいてきたかと思うと、がらりと扉が開いた。
「陛下、まだこのような所にいたのですか」
 そこには呆れ顔をした大臣が立っていた。王様は大臣が姿を見せた一瞬だけ眼をやったが、すぐに興味なさそうにしてからっぽの教室の方を向いてしまった。
「ここはもう駄目です、早くお逃げください」
 大臣は急かすようにそう言ったが、王様はちょっと嫌そうな顔をしただけで、返事一つしなかった。
「もう革命軍は、すぐそこまで迫っています。陛下、少しは危機感を持ってください」
「静かなものじゃないか」
 開けたドアを右手でガタガタと揺らして苛立ちを隠さない大臣に向かって、王様は妙なくらいに穏やかな声でゆっくりと答えた。大臣は王様の返事を聞いてあからさまに顔をしかめたが、王様には気にする様子もなかった。ぼうっと空っぽの教室を眺めたままだった。
 大臣はドアから手を放して、教卓の前までつかつかと歩いていった。そして王様の真正面に立ち、両手でばんと教卓を叩いた。
「今だけです、陛下。奴らはすぐにここまで押し入ってきますよ。私は国のため、陛下のためを思って言っているのです。さあ今すぐに、そこから立ち上がってください」
 それでも王様は大臣と眼をあわせようともしなかった。視線を大臣から逸らせて、向こうの壁に貼られたポスターなんて見つめていた。
「そうか、そういえば今週は読書週間か……。お前は何か読んだか」
「なんの話をしているのですか」
 大臣は声を荒げたが、王様はとりあおうともしなかった。
「余は何か読んだような……。忘れてしまった」
「それどころじゃありませんよ」
 大臣はそう言いながら、さっきよりも強く教卓を叩いた。しかし王様はまったく動じなかった。二人だけの教室に大きな音が響いた。けれどすぐにまた静けさが戻った。それはさっきよりもいっそう強い静けさだった。時計の針の進む音が妙なくらいに響いてきた。
「……護衛の兵を連れて来ます。それまでここで待っていてください。繰り返しますが、ここはもう駄目なのです。私が戻ったら、そのときにはここを出ていくのですよ」
 大臣は自分の立てた音のために少し冷静になったようだった。そんな大臣を、王様は不自然なくらいに穏やかな眼をして眺めていた。それだけ言うと大臣は、また入ってきたときと同じようにつかつかと歩いて教室を出て行った。王様だけが誰もいない教室に残された。王様は教室の真ん中の辺りを見るでもなく見ていた。
「ここはもう駄目、か」
 残された王様はそう呟くと、つまらなさそうに鼻を鳴らした。ひとりになると、王様の表情から作り物めいた穏やかさが消えた。王様はまったく無感動な表情をしていた。その表情は見るもののない石像を思わせた。王様はふいと窓の外に眼を向けた。
 教室の窓からは、青い空と並木の天辺が見えていた。王様は何か考えているような、何も考えていないような、傍からでは胸の内をうかがえない静かな表情をして、外を眺めていた。
 風が吹いたらしく、外の木がざわざわと揺れた。王様は揺れる木にあわせて、窓の方に向かってふぅっと息を吹きかけた。王様の息が木を揺らしているように見えた。息を吹いて、王様はひとりで笑った。ちょうどそこに、槍を持った兵隊を三人連れて、大臣が戻ってきた。
「何を笑っているのですか」
 王様は笑ったまま顎で外の木を示したが、大臣にはなんのことかわからなかった。大臣はそんな王様には気にもとめず詰め寄った。三人の兵隊はその間に一歩二歩教室に足を踏み入れ、そこで綺麗に整列した。
「さあ陛下、逃げるのです。今逃げないと取り返しのつかないことになります。ふざけていないで、いい加減にその重たい腰をあげてください」
 しかし王様は、大臣の言うことには耳を貸さなかった。王様は片足でバランスをとりながらパイプ椅子を後ろに傾けて、反り返りながら三人の兵隊の方を見た。
「三人とも見覚えがないな。名はなんという」
「飯島です」
「小川です」
「鶴川です」
 三人の兵隊はビシッとした敬礼をして、それぞれが順番に答えた。すると大臣は露骨に顔をしかめた。
「陛下、こいつらの名を聞く時間などないのですよ」
「名も知らん連中に護衛などされたくないな」
 王様の言葉に大臣はまた顔をしかめたが、すぐに気を取り直して兵達に命じた。
「飯島、小川、鶴川、陛下をお連れするぞ」
「はっ」「はっ」「はっ」
 三人の兵隊は大臣の命令に敬礼をして答え、王様を連れ出そうとした。しかし王様はパイプ椅子から立ち上がろうとしなかった。教卓に頬杖を付き、口元にうっすらと笑みを浮かべて、黙ったまま兵達を眺めていた。相手が相手なので、三人の兵隊は困ってしまって大臣の方を見た。
「陛下、革命軍に捕まったらどんなことになるか、わかっておいでなのですか」
 大臣は声を荒げて言った。しかし王様はそんな大臣のことは気にも留めず、教卓にもたれかかって言った。
「お前達、席に着いてみろ」
「陛下」
「余の命が聞けんか」
 大臣は眉間に力いっぱい皺を寄せて王様を睨んだが、結局は渋々席に着いた。三人の兵隊も大臣に続いた。一番前の列の真ん中に大臣が、そのすぐ後ろの列に兵隊が並んで座った。兵隊達は手に持った槍をどうしようか迷ったようだったが、三人とも握ったまま縦にして床についた。コツコツコツと三度バラバラに音が鳴った。
「それで、何だというのですか」
「まあ聞け、大臣。重要なことだ」
 大臣はこれ以上ないほどに不満気な顔をしていたが、王様は意にも介さなかった。三人の兵隊はまじめな顔をして席に着いていた。
「飯島、この国の名を言ってみろ」
「テラスカ王国であります」
 飯島が生真面目に答えるのを聞いて、王様は満足そうにうなずいた。大臣は王様を睨みながら、人差し指で机を叩き苛立ちを露わにしていたが、王様は気にもしなかった。
「では小川、テラスカの由来を説明できるか」
「由来でありますか……」
 小川は言葉に詰まってしまった。王様はそんな小川を見て、愉快そうに笑った。
「なんだ、教育が行き届いていないな。鶴川、答えられるか」
「いえ、自分も由来までは……」
「陛下」
 そこまで黙って聞いていた大臣だったが、どうやら堪え切れなくなったらしく、堪らず声をあげた。
「これは一体何をしているのですか」
「わからないか、学校ごっこだ。子どもの頃にはお前もやったのではないか。懐かしいだろう」
「そ・れ・ど・こ・ろ・じゃ・ない!」
 大臣の大声に兵隊達はビクッと背筋を伸ばしたが、王様はどこ吹く風で、馬鹿にしたように鼻を鳴らしただけだった。王様は興が冷めたとでも言いたげな顔で、大臣の顔を眺めた。
「陛下、革命軍はもうすぐそこまで迫っているのですよ」
 大臣がそうどなると、廊下からガヤガヤと音が聞こえてきた。ガヤガヤはひとつずつ教室を調べているらしく、時折ドアを開ける音を立てながら、だんだんと近づいてきた。大臣は真っ青な顔をして祈っていたが、無情にもガヤガヤは王様達のいる教室の前までやってきたかと思うと、開けっ放しになっていた入口から槍を持った男が顔をのぞかせた。
「いたぞ、テラスカ王だ!」
 槍を持った男は声を上げると同時に、教室に飛び込んできた。同じように槍を持った男が三人それに続いた。四人はバラバラの格好をしていたが、みんな揃いの帽子を被っていた。それが革命軍の印ということのようだった。
「ほら、言わないことじゃない。お前達、陛下を守れ!」
 大臣が教卓に駆け寄りながら泣きそうな声を出すと、テラスカの兵隊達はすぐに席から立ち上がった。そして教室の入口に立つ革命軍の兵隊達の前に立ちふさがり、並んで槍を構えた。
「おい、仲間を呼んで来い」
 一番体の大きな革命軍の男が一番体の小さな革命軍の男に指示を出した。小さな革命軍の男は一度頷くとすぐに走り去り、兵隊の数は三対三になった。そして教室を入ってすぐの場所で、にらみ合いになった。
「諦めろテラスカ、すぐに大勢の仲間がやって来る。もう逃れようはないぞ」
「おい飯島、小川、鶴川、こいつらをなんとかすればまだ逃げられるぞ。今のうちにやっつけろ」
 大臣の声をきっかけに、テラスカの三人は槍を構えて革命軍に突撃した。革命軍は突かれてはたまらないので、廊下に飛び出した。テラスカの三人もそれを追いかけて廊下に飛び出していった。教室は一瞬王様と大臣の二人だけになった。しかしすぐに後ろの入口から革命軍が飛び込んできて、テラスカ兵がそれに続いた。大臣ははらはらした様子で兵達を見守っていたが、王様は表情を変えずにただぼんやりとして眺めていた。
 革命軍は教室の中を駆け抜け、あわや窓に激突というところでさっと振り向き、反撃に出た。テラスカの三人も突かれてはたまらないので、机の間を散り散りになって避けた。革命軍の突撃は空振りに終わった。するとテラスカの三人はもう一度集まって、革命軍に向かって改めて突撃した。しかし革命軍も机の間を散り散りになって、テラスカの突撃もまた失敗に終わった。
「早く、仲間が来る前に仕留めるのだ!」
 大臣がほとんど悲鳴のような声を上げた。テラスカ軍と革命軍は机と机の間で、代わる代わる突撃しあった。テラスカ軍が打って出ると、革命軍は散って逃げる。革命軍が打って出ると、テラスカ軍は散って逃げる。教室の中でそれが何度も繰り返された。
 あの小さな革命軍の男が仲間を連れて戻るまでに、どれくらいの時間がかかるだろうか。そんな思いが王様の頭を過ぎったが、口には出さなかった。王様はその眼をほんの少しだけ細めた。王様の視線の先では、兵達が真面目な顔をして駆け回っていた。兵隊達は机を蹴飛ばさないように、上手く間を縫って走り回った。整然とした突撃が、何度も繰り返された。
 王様は窓の外に眼を向けた。そこではさっきと変わりなく、木々が風に揺れていた。王様は小さく息を吹きかけて、微かに笑った。
「テラスカ王を討てば革命は終わりだ、新たな国が生まれるぞ!」
 一番体の大きな革命軍の男が声を上げると、残りの二人も「おぉ」と答え、テラスカ兵に向かっていった。しかしテラスカ兵はまたも散らばってしまい、その突撃もまた失敗に終わった。
「陛下をお守りしろ! テラスカ王国の名の下に、突撃!」
 飯島が三人のリーダーだったらしく、勇ましい声を上げると、小川と鶴川が「おぉ」と答えた。三人は勇ましく突撃していったが、これもやはり散らばって逃げられてしまい失敗に終わった。
「大臣よ、これもごっこ遊びのようなものではないか」
 王様がそう呟いたが、国の存亡を賭けた攻防に夢中になっている大臣には聞こえなかった。大臣はずっと「いけ!」「そこだ!」などと叫んでいた。
「新たな国の名の下に!」
 革命軍が声を上げる。
「新たな国には、どのような名をつけるつもりなのだろうな」
「突け突け飯島! テラスカの名に恥じぬ働きをしろ!」
「今はテラスカと呼ばれるこの国が、明日には違う名で呼ばれている。なんなのだろうな。ふふ、同じではいられない、か」
「いけー!」

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


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美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
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金魚風船


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「ごっつ好きやで」


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「やっぱ、別のことしよっか」


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