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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「白い翼のフラジール」(小石薫)

テーマ:雲の女



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 えぇ。確かに昔、彼女に会ったことがあります。場所は、神社の境内でした。

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 えぇ。確かに昔、彼女に会ったことがあります。場所は、神社の境内でした。
 隠れん坊をしていたら、いつの間にかみんな僕を残して帰りやがりましてね。まぁ、小学生の時分ですから、心細くて、泣きました。暮れ方の神社って、あのぉ、独特な雰囲気があるでしょ。それが怖かったってこともあったんでしょうね。それでメソメソ泣いてたら、急に声を掛けられた。「どうしたの?」って。顔をあげたら、すぐ目の前に女の人がいました。薄暗い中でもくっきり姿が見えましてね、白いセーターに黒いジーンズでした。えらく綺麗な人だったのと、目が青かったことをはっきり覚えてます。
 その人は訳も聞かずに、「かくれんぼなんか止めて、私と鬼ごっこしようよ」なんて言いました。暗くなり始めた神社で、知らない人にそんなこと言われたもんですからそりゃ怖かったですよ。でもこっちが何も言わないでいると、向こうは五歩くらい離れて楽しそうに手を叩くんです。「おっにさんこっちらっ、てーのなーるほーうへっ」って歌いながら。
 その内こっちも乗り気になってきて、追いかけ始めました。ところが向こうはきゃぁきゃぁ言って逃げ回って、全然捕まらない。もうすばしっこいのなんのって。あんまり捕まらないもんだから、こっちはだんだんムキになってきましてね。いつの間にか本気になってた。一生懸命走っているうちに、隠れん坊で置き去りにされて悔しいのとか悲しいのとか全部忘れちゃって、ずっと彼女の声を追いかけてました。いよいよ疲れて走れなくなった頃に兄が迎えに来て、「こんな遅くまで何やってんだ」と叱られました。
 慌てて辺りを見回したら誰もいない。ただ、薄暗い境内に自分と兄がいるだけでした。もう20年も前のことです。
 ところで、住吉さん、でしたね。色々と熱心に調べられているようですが。え? 会いたいって、彼女にですか? なるほど、お仕事だけじゃないんですね。うーん。ですが、もう20年も前のことですからね。いや、お役に立てず申し訳ない。えぇ、確かにそうですね。信じて追っていれば、必ず会えますよ。もし会ったら、神社で貴女が会った泣き虫は、今は社会に出て、立派にやっていますと伝えてください。

2
 シロコさんの話、ですか? 私の通ってる中学じゃ、みんな知ってますよ。どこから話せばいいですか? 全部、ですか。解りました。結構、人によって細かいとこ違っちゃったりするんですけど、とりあえず話しますね。

 シロコさんという、とても優しいお母さんがいた。シロコさんには小学校に上がったばかりの息子(娘だったりもします)がいて、シロコさんはその子をとても可愛がっていた。子どもが学校に行く時はいつも同じ場所まで送りに行ったし、学校から帰ってくるときは同じ場所まで迎えに行った。子どももシロコさんが大好きで、いつもお母さんに甘えていた(子どもはお母さんのべったりを嫌がってたと言う人もいます)。ある日、シロコさんはいつもの場所で子どもが帰ってくるのを待っていた。子どもは何人かの友達と一緒に帰って来た。友達はふざけて、シロコさんの子どもを叩いたり押したりしていた。シロコさんはそれを見て怒って、ひと言言ってやろうと子どもたちへ近づいていった(遠くで見ていたっていうパターンもあるみたいです)。その時、シロコさんの子どもを押す友達の手に力が入り、シロコさんの子どもは車道に押し出された。そこにトラック(ダンプカーの時もあります)が走ってきて、シロコさんの目の前で、その子をひき殺してしまった。それ以来シロコさんはおかしくなって、自分の子どもを殺した友達に復讐しようと、子どもがひとりでいるところへ現れては、さらっていって殺してしまうようになった。シロコさんに会ったら「シロコさん、シロコさん。真っ白になれ」と3回間違わずに言わないと、連れ去られて殺されてしまうんだって。シロコさんはいつも白いタートルネックのセーターに、黒のジーンズを履いている。そして真っ黒な長い髪と青い目だからすぐに解る。今も、あなたがひとりになる時を、じっと狙っているかも知れない。ほら、あの隙間に青い目が――。

 と、こんな感じです。さっきも言いましたけど、結構細かいとこは人によって違ってるんです。でも、シロコさんの服装と、呪文だけはみんな一緒なんですよね。まぁ、服装はいいとして、呪文が違っちゃったら説得力ないですもんね。
 あ、これ、なんか記事とかになったりするんですか? だったら私の名前載せてくださいね! ぜったい買って読みますからっ。

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 えぇ、確かにその人でした。白いタートルネックのセーターに、黒のジーンズの。綺麗な黒い髪なのに、目が青いのが不思議で、よく覚えてます。今なら、カラーコンタクトをしていると思うだけだったでしょうけど、まだほんの子どもだった私は、カラーコンタクトなんて知りませんでしたから。
 何をしたか、ですか? 確か、手品をしてくれたんだったと思います。いや、手品って言うより、手遊び、ですね。ほら、歌に合わせて指を数えていくと、両手の指が11本になる遊びがありますよね。不思議なゆ~びがいっぽんに~ほん、て。あれとか、親指が横にスライドしたように見える遊びとか。結構、長い間遊んでもらったと思います。だから他にも色々してもらったはずなんですけど、なにせもう随分むかしのことですから。なかなか。
 うーん。どれくらいかっていうと、学校に上がるか上がらないかの頃でしたし、もう15年近く前ですね。
 え? あ、あぁ。遊んでもらった時間のことですか。すみません。あはは。聞かれもしないのに歳バラしてしまった。えぇと、遊んでもらったのは、1時間か、もしかしたら2時間くらいだったと思ってはいるんですけど。
 でもこのあたりが自分でもおかしくて。前にメールでお話しましたけど、友達がみんな帰ってしまって、公園で母が迎えに来るのを待っていた間のことなんです。私が、彼女と会ったのは。もう日が暮れかかっていて、辺りがオレンジ色に染まっていました。そんなに母が遅いわけないですし、1時間や2時間も遊んでいたら、遊び終わる頃には暗くなっているはずだと思うんです。でも母が来て、その人にさよならした時も、やっぱり夕暮れだったんですね。まぁ、子どもの頃の時間はなんでも長く感じるものですから、実際はもっと短かったっていうだけなのかも知れませんけど。
 彼女が、今噂になってるんですよね。15年も前の話で、えぇと、住吉さん、でしたっけ。住吉さんには残念じゃなかったですか?
 あ、あぁ。確かにそうですね。15年も前から彼女がいたっていう証拠になりますもんね。なるほど。住吉さんは、彼女がいることを本当に信じているんですね。なんだか嬉しいです。じゃあ私からこれだけ、最後に言わせてください。夢でも記憶違いでもぜったいありません。彼女は確かに私の前に現れたんです。15年も前に。

4
 あるところに、翼と胸が白いカラスがいました。さらに変わっていたのは、目の色でした。晴れた空のように真っ青な目をしていたのです。このカラスの名前はフラジールと言いました。フラジールは、雲の中に隠れて暮らしています。白くて黒くて青いカラスは、どこに行っても目立ってしまうからです。フラジールは雲の中から地上や空を見るのが好きでした。そしてなにより、子どもの笑顔が大好きでした。
 フラジールは地上を見ていて泣いている子どもがいると、そこに飛んでいって、色々なことをして笑わせます。子どもたちが笑顔になると、フラジールも幸せでした。そしてその子が大丈夫になると、フラジールはまた雲の中に戻って行くのでした。
 ある時は、公園でお母さんに会えなくて泣いている女の子に面白い遊びを見せて、笑顔をあげました。
 ある時は神社の境内で一人ぼっちになった男の子と鬼ごっこをして、笑顔をあげました。
 みんなが笑顔になって、フラジールはとても幸せでした。
 ある日、フラジールは自分の名前を呼ぶ声を聞きました。フラジールは、誰かに名前を呼ばれるなんて初めてのことでしたから、喜んでその声のする方へ飛んで行きました。すると――

5
 ちょっと待ってください。ちょっと待って。今の話を整理させてください。色んな人から話を聞いてきたんですね。作り話じゃ、ないですよね。えぇ、えぇ解ってます。あなたが、いいえ、世界中の誰だって、あの話を知っているはずがないんです。話に合わせた作り話なはずがない。大丈夫、解ってます。すみません。少し混乱してます。
 ところでそもそも、あなたは、失礼、住吉さんは、どうして、その、彼女を調べようと思ったんです? どこで、最初に知ったんですか。
 あぁ、なるほど、担当している雑誌の投稿コーナーですか。そこに、半年続けて彼女に関連する投稿が続いたんですね。前の投稿に反応して、そういえば自分も似た話を聞いた事がある、見たことがあると。そして住吉さんは一連の投稿を読んで非常な興味をもたれたと。では、今の話はその投稿者の方々に聞いた話なんですね。なんだか、因縁めいてますね。だって私は、住吉さんの雑誌を読んだことはないですし、ましてや投稿したことなんて一度もありません。なのに、住吉さんは私にたどり着いた。
 住吉さんに私を紹介した京子は、私の友達で、住吉さんの雑誌の熱心な読者です。そんなところで繋がりがあるなんて、本当に因縁としか思えません。確かに住吉さんが京子から聞いた通り、京子からこの話を聞いた時私は、とても驚いて京子が知っていることを全部聞き出しました。京子自身も、詳しくは知りませんでしたが。そんなことがあったから、京子は私がこの話に並でなく興味を持っていると思ったのでしょう。ですが、それは半分正解で半分はずれです。興味がある、というレベルではないんです。なぜなら、私が彼女の生みの親なんですから。
 実は私も、一度だけ彼女を見たことがあるんです。その頃、私はまだ子どもの年齢でした。とても感じやすい性格で、ほんの些細なことで傷ついていました。あんまり細かいことばかり気にするものだから、その内誰にも話を聞いてもらえなくなりました。今思えば、仕方ないことです。だって、壁の模様が人の顔に見えるとか、犬に会うと決まって吠えられるとか、そんな詰まらないことばかりをさも一大事のように話すんですから、聞く方だってそれはうんざりします。
 話が飛ぶようですが、その頃の私は、いつか小説家になるのが夢でした。自分だけの物語を考えるのが好きで、色々子どもじみた空想をしては、ノートに書き留めていたんです。そうやって好きな事を書いている間はとても楽しくて、救われるような思いでした。寂しさがつのったり悲しさで胸がいっぱいになると、何かを書いて気持ちを紛らわしていました。それだけでよしておけばいいのに、その物語をまるで本当のことのように人に話すんです。さっきの詰まらないことと相まって、私は人に話を聞いてもらえない子どもでした。相手の事を考えていなかったんですから、当たり前です。いつも寂しくて、かまってもらおうとしてますますおかしな話ばかりして。すっかり悪循環でした。
 ある夜、部屋でひとり本を読んでいたら、突然たまらなく寂しくなりました。寂しくて寂しくて、何か書かずにはいられなくなったんです。本当に、おかしくなるんじゃないかっていうくらい、いえ、きっとおかしくなっていたんでしょう。だって、彼女が生まれたのは、その夜だったんですから。
 私はいつも物語を書いているノートの一番新しいページを開いて、乱暴な勢いで書き始めました。翼と胸が白くて、目が真っ青なカラスの話です。寂しがっている子どもを見つけては、楽しく笑顔にしてくれる優しいカラスの話。でも私は、書いている途中で怖くなりました。本当は、私のところへ来て、話を余さず聞いてくれるという物語にしようと思っていたんです。でも、そこまで書いてしまったら、本当に彼女が来てしまうような気がした。そしてそうなったら、私は彼女にどこか違うところへ連れ去られてしまうような、そんな気がしたんです。だから、私は物語を途中で止めて、それどころか書いたページをバラバラに破いてゴミ箱に捨てました。それから布団に入り込んで、目を閉じてしまいました。
 目が覚めたのは明け方でした。誰かが、寝ている私を見下ろしている気配がありました。最初は何かがあって、母か父が起しに来たんだと思いました。でも、違った。それは彼女でした。白いセータに黒いジーンズを履いて、じっと私を見つめていました。明るくなり始めた外からのかすかな光が、彼女の横顔をぼんやりと照らして、悲しそうな青い目を光らせていました。私は何か言おうとしましたが、身体が金縛りにあったように動きません。そうしているうちに、彼女は溶けるように消えてしまいました。もしやと思って窓に飛びつくと、その窓の向こうに、白い翼のカラスが空へ向かって飛んでいくのが見えました。
 これは、夢の話ではありません。前の日の夜、ゴミ箱に捨てたバラバラのノートが、ひとつ残らず消えていたんですから、夢なはずがないんです。彼女は、私が生んだ。
 それ以来、私はもう二度と物語を書く事はなくなりました。それもきっと、彼女が生まれたからです。物語を書くのが、怖くなってしまって――。
 まとまりのない話でごめんなさい。さっき混乱してしまったのは、住吉さんが聞いてきたという話が、私が書いた話とあまりに似ていたからなんです。以前から、この世界のどこかに彼女が存在しているような気はしていたんですよ。でも、こんなに書いた内容とそっくりなことが実際に起こっているなんて、信じられません。もっとも、彼女が実際に存在しているという時点で、普通に考えたら信じられないようなことが起こっているんですから、今さら信じるも信じないもないのかも知れませんが。
 誰かに、この話をしたのは初めてです。なんだか肩が軽くなりました。それに自分でも信じられないですが、彼女に会ってみたいような気もします。でも、ダメですね。彼女はきっと私を憎んでいます。完成させてあげられなかった。それどころかそれ以来筆を折って、そのことを彼女のせいにしている。私には、会えたとしても会う資格なんてない。
 えぇ。住吉さんも、彼女に会いたいと思ってるんでしたね。それなら、彼女に会う方法を教えましょう。もし本当に、私の物語の通りなら、ですが。
 簡単なことです。彼女の名前を呼んであげてください。はっきりと声に出して、呼びかけてあげてください。彼女の名前はフラジール。彼女は、フラジールは、その声をずっと待っているはずです。

6
 驚いているの。それでなかなか言葉が出てこなくて。もう22年も、誰ひとり私を呼んでくれなかった。たくさんの子どもたちと会ってきたけど、誰も私の名前を知らないんだもの。それどころか、最近はシロコさん、なんて名前をつけられて、お化け役にされて。いくらなんでも、ちょっとひどいよね。でも悪いといえば、私も悪いのかな。2年経った頃にはもう、自分の名前がよくわからなくなっていたし。
 はっきり思い出せたのは、あなたが呼んでくれたから。すごく嬉しかった。だって、初めて誰かと手をつなげた気がしたんだもの。
 え? うん、確かに、たくさんの子どもたちと遊んできた。でも、そうじゃないの。その時は、私であって私じゃなかった。あなたに名前を呼ばれて、自分の名前を思い出して、私はやっと私自身になれたの。私が私自身として生きないで、心から誰かと繋がり合えるはずない。そうでしょ? 私は、繋がりたかったの。
 ねぇ、私のフラジールという名前が、どういう意味か知ってる?
 うん、そう。壊れやすいとか、実質がないとか、そういう意味。だからって事はないんだろうけどね、私は私の物語が終わってしまったら、消えてしまうしかないの。よく解らないけど、私ってそういうものみたい。解るんだ。
 私はね、長い間、物語が終わることを望んできた。私の物語が進むことで、私は満たされてきた。子どもたちに笑顔をあげるよりずっと。
 私の夢は、物語が終わること。
 住吉さんは、私の物語がどこまでか、知ってる?
 そっか、それは、聞いてないか。あのね、悪く考えないでね。誰かに名前を呼ばれて、その人のもとへ向かうところまで。だから、あなたと会っているこの時間が終わってしまったら、私の物語はおしまい。私も、おしまい。
 そんな顔をしないで。私は今幸せなんだよ。途中とは言え、私にとってはそれが全部。物語が終わって、夢が叶って満たされているんだから。でも、夢が叶った途端に、消えないといけないのは少しだけ悲しいかな。

 え? 神社で会った子? お兄さんが迎えに来た子、かな。その子がどうしたの? 
 あ、そう。今は、大人になって、しっかりやってるんだ。そっか、そう、なんだ。なんか、なんかジンとしちゃうな。うん。それが聞けて、もう十分過ぎるくらい。ありがとう。名前を呼んでくれたのが、あなたで本当に良かった。
 ついでにひとつ聞いていい? 私を書いた人は、今は――。
 そう、あの時から、何も書いてないんだ。恨んでなんか、ないのにな。会いに行けない私も、悪い、のかな。

 もう日が暮れてきたね。帰らなきゃ。この上すごくわがままだけど、ひとつだけお願いを聞いてもらっていい? 私はもう消えてしまうから、それにもとから会いに行く勇気もないから、住吉さんから私を書いた人に伝えて欲しいことがあるの。
 ひと言だけ、「フラジールは妹を欲しがっていました」って。住吉さんが伝えてくれたら、最後にあの人とも、繋がれる気がする。
 ねえ、私たちは、何かや誰かと繋がるために生まれてきたんだと思わない? それさえできたら、この世界に存在していた意味があるって、ひとりで過ごした長い時間も、無駄じゃないって思わない? 
 ありがとう。思いたいだけだっていうのは、解ってる。だけど住吉さんが頷いてくれたから、私は帰れるよ。もうあの寒い雲の中に、ひとりぼっちでいなくていいんだ。
 うん。それじゃあ、さようなら。体に気をつけて。もし妹にあったらよろしくね。

7
 そうですか。彼女は、そう言っていましたか。

 住吉さん、あなたに、彼女の妹の最初の読者になって欲しい。今度はちゃんと、最後まで書きますから。お願い、できますか?

おわり

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空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
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ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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「やっぱ、別のことしよっか」


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