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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

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「晩夏」(I)

テーマ:月光と線路



 私の実家の裏には、私鉄の線路が通っている。いつ出来たのかわからないくらい古い単線で、田舎だからあまり電車も通らない。そのせいかいつも不思議な静けさが漂っていて、私は昔から、二階の自分の部屋の窓からこの線路をただ眺めるのが好きだった。線路の一方はゆるやかな上り坂になっていて、山へと続いている。もう一方は左右にひょろひょろと背の高い木々を見ながら、港へ出るようになっている。私の家はそのまんなかにあり、山から吹き降ろす風と、海から駆けてくる風がぶつかり合って、時々ぐるぐると妙な音を立てたりした。

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 私の実家の裏には、私鉄の線路が通っている。いつ出来たのかわからないくらい古い単線で、田舎だからあまり電車も通らない。そのせいかいつも不思議な静けさが漂っていて、私は昔から、二階の自分の部屋の窓からこの線路をただ眺めるのが好きだった。線路の一方はゆるやかな上り坂になっていて、山へと続いている。もう一方は左右にひょろひょろと背の高い木々を見ながら、港へ出るようになっている。私の家はそのまんなかにあり、山から吹き降ろす風と、海から駆けてくる風がぶつかり合って、時々ぐるぐると妙な音を立てたりした。

 そのときも私は部屋の窓から線路を眺めていた。空に青っぽい月が出ている夜だった。線路のあちこちに、線路を囲む柵の平べったい影が横たわっていた。線路の向こうの田んぼでは蛙が鳴いていた。
 踏み切りの音が聞こえた。カンカンという音がいつもより鋭い感じがした。耳を澄ませていると、ふいに足下でジジと音がした。昼間捕まえた蝉が、虫かごの暗がりでもぞもぞと動いていた。
 踏み切りの音はあちこちを行ったり来たりしながら、だんだん鋭さを増していくようだった。向こうの田んぼの中に鳥か何かが水を飲んでいる影だけが見えた。ふいに踏み切りの音が消えた。何だか中途半端な余韻が辺りに残った。

 余韻が消えると、入れ違いに、ずるずる、という音が聞こえた。見ると、細長い布袋に入った大きな何かが、線路の上を芋虫のように這っていた。それはどうやら海の方からやってきたらしく、背の高い木々の隙間に、水とも粉とも区別のつかない何かをひきずった跡がずっと続いているのが見えた。袋はちょうど私のいる窓の下辺りで動かなくなった。
 ほどなくして、山の方から同じようにずるずると音がして、少し大きな袋が、やっぱり芋虫のように這ってきて、動かなくなった。
 蛙の声が消えた。月明かりが濃くなった。すると再び蛙が鳴き出した。落ち着きのない鳴き方だった。二つの袋はゆっくりお互いに近づいていった。今度は何の音もしなかった。
 袋はしばらく様子を見るように、お互いのにおいを嗅ぎあっているようだったが、突然、大きな袋に小さな袋がのしかかり、ばたばたと暴れ出した。大きな袋はされるがままといったふうだったが、小さな袋がおとなしくなると、今度は大きな袋が小さな袋を飲み込み、すぐに吐き出した。吐き出された小さな袋はぬらぬらしていた。小さな袋はそのまま大きな袋に全身をこすりつけ、大きな袋は小さな袋の中に半身を突っ込み、ぶるぶると震えた。何をしているのかは全然わからなかったが、そんなことを繰り返すうちに、袋から水っぽい音がし始めた。私はなぜかどきりとした。袋は何度も重なり合い、ほどけ、その時々に、うなり声のようなものをあげた。男の声とも女の声ともわからなかったが、その声を聞いていると変な気分になった。月明かりはますます冴えていった。しかしどういうわけか線路の周りはどんどん暗くなっていき、絡み合う袋のほかの余計なものが、影の底に落とされてしまったように見えた。
 やがてどちらかの袋が、言いようもなく美しい声を出した。声は線路に沿って、山の中に吸い込まれていった。田んぼの鳥がさっと飛び立つ音がした。蛙の声が消えた。袋は重なったまま動かなくなった。一つになった影の中で、何かがぬるぬると光っていた。

 数秒の静けさのあと、おそるおそるといった感じで、蛙が再び鳴き始めた。ゆっくり雲が流れてきて、月を隠した。線路の外の影の中から、柵や田んぼがうっすらと浮かび上がってきた。緊張の糸が解け、私はお腹の辺りが熱くなっているのを感じた。
 袋は重なったまま、しばらく端のほうをぱたぱたと動かしていたが、やがて名残惜しそうにお互いの体を離し、またずるずるとそれぞれの来た方向へ線路を這っていった。袋の姿が見えなくなると、踏み切りの音が中途半端なところから再開し、まばらな人を乗せた終電車がごとごとと通り過ぎた。線路の上には何も残っていなかった。私はカーテンを閉め、疲れた体をベッドに沈めた。目をつぶったが、月明かりがまぶしすぎてうまく寝付けなかった。

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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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姉妹は仲の悪いまま年老いて
 町は背を伸ばし肥え太る
幾度かの通夜と性交を経て
 雪は降らなくなった
生まれた家は駅に食われたが
 風は相変わらず強く吹いている
姉妹は仲の悪いまま年老いたが
 市長に品が無い
 という意見だけは一致している


「姉妹は」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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