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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

「ずれ」(I)

サイトウ家の居間。
テーブルを挟んで、4人の男女が座っている。
この家の一人娘・ユミの隣に座るのは、ユミの恋人であるタナカ。真面目そうな見た目だがどこか落ち着きのない青年。
向かいに座っているのは、サイトウ家の父と母。

少し緊張した様子のタナカ。
タナカの手をテーブルの下で握り、つとめて笑顔を作っているユミ。
ニコニコしながらお茶を飲みつつ、タナカを値踏みするような目で見ている母。
真っ赤なビキニでグラビアポーズを取っている父。(ポーズは随時変化する)

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サイトウ家の居間。
テーブルを挟んで、4人の男女が座っている。
この家の一人娘・ユミの隣に座るのは、ユミの恋人であるタナカ。真面目そうな見た目だがどこか落ち着きのない青年。
向かいに座っているのは、サイトウ家の父と母。

少し緊張した様子のタナカ。
タナカの手をテーブルの下で握り、つとめて笑顔を作っているユミ。
ニコニコしながらお茶を飲みつつ、タナカを値踏みするような目で見ている母。
真っ赤なビキニでグラビアポーズを取っている父。(ポーズは随時変化する)

母が湯のみをテーブルに置く。
ユミがタナカのヒザをぽんぽんと叩く。
意を決して口を開くタナカ。


タナカ
「えー、今日は大事なお話をしに参りまして……」


「大事なお話?」

タナカ
「はい。あの……えー……まぁ、ユミさんと僕の、その、将来についてですね」


「ええ」

タナカ
「あのー……」


「……どうしたの? 続けて?」

タナカ
「いえ、あの……お二人にはその、今日初めてお会いしたばかりなので……こんなことを申し上げるのは、失礼かもしれないんですが」


「いいのよ、気にしないで。まぁ、前もってお会いできたら、それはそれでよかったけどね」

タナカ
「すみません」


「あら、タナカさんのせいじゃないわよ。ユミがいつまで経っても連れてこないもんだから。照れてたのかしらね?」

ユミ
「私もタナカさんも忙しかったから、色々」

タナカ
「すみません」

ユミ
「気にしないで」


「そう、気にしないで」

タナカ
「はぁ」

ユミ
「で、ほら……」

タナカ
「あ、うん。……えー、お父様、お母様」


「はい」

タナカ
「今日は、ユミさんとの結婚の、お許しをいただきたいと思い、参りました」


「あら」

タナカ
「はい……」

ユミ
「お父さん、お母さん、お願いします」


「まぁ、私は、ユミが自分で選んだ人なら構いませんよ」

ユミ
「お母さん……」

タナカ
「ありがとうございます!」


「あ、ただ、いくつかお聞きしてもいいかしら?」

タナカ
「ああ、はい、どうぞ」


「お仕事は何をされてるの?」

タナカ
「劇団で俳優を」


「あらー、すごいじゃない」

タナカ
「いえ、まだ、そんなに名前が売れているわけではありませんので……」


「そうね。あら、そうねだって。あはは、ごめんなさいね。あの、でも正直、タナカさんのお名前、存じ上げなかったから」

ユミ
「まだ駆け出しだもん」


「そうなの。ふうん……えーと、その劇団の俳優っていうのは、月の収入はどのくらいなの?」

ユミ
「お母さん」


「大事なことよ」

タナカ
「えーと……まぁ、俳優としての収入っていうのは、月に5、6万がいいところで」


「は?」

タナカ
「あ、でも、アルバイトをしてますので、そのアルバイトの収入が10万ほどありますので」


「……ああ、そう。……大変なのね」

タナカ
「はい……あの、ですが」

ユミ
「タナカさん、夢があってね、今は一生懸命修行して、俳優として有名になって、大きい劇場で舞台に立つの。何だっけ、あの演出家の……」

タナカ
「ああ……」


「いつなるの?」

タナカ
「はい?」


「いつ有名になるの?」

タナカ
「……そ、それはちょっと、わからないんですけど……」


「タナカさん、おいくつでしたっけ?」

タナカ
「31になります」


「いつから俳優やってるの?」

タナカ
「23のときからです、一応」


「それ、才能ないんじゃないの?」

タナカ
「……!」

ユミ
「ちょっと、お母さん!」


「黙ってて」

ユミ
「お母さん!」


「黙ってて!」

ユミ
「……」


「タナカさん」

タナカ
(母を睨んでいる)「……」


「タナカさん」

タナカ
「……はい」


「初対面でこんなこと言うのは失礼なんですけど……」

タナカ
「……何ですか」


「あなた、人生なめてるの?」

タナカ
(突然狼狽し)「……い、いえ、そんなことは……」


「私がグラビアアイドルだからってなめてるのか!」

タナカ
「いや……」


「ユミと結婚して、ユミを養っていけるの?」

ユミ
「私も働いてるし……」


「働いてるから何?」

ユミ
「いや、だから、別に私が養ってもらわなくても、私が、ヒロくんが有名になるまで……」


「いい加減にしなさい!」


「私がグラビアアイドルだからってなめてるのか!」

ユミ
「いや……」


「あったま来た! 母さん!」


「はい」


「ローション!」


母、父の目の前に置いてあった湯のみからローションを手に取り、父の体中に塗りたくる。



「んふ……っ」


「タナカさん、あなた今日は、あなたとユミの将来の話をしに来たっておっしゃてましたよね?」

タナカ
「はい……」


「結婚っていうのは、将来のスタート地点に過ぎないのよ? その後のこと考えてるの? ユミのお金でダラダラ劇団続けて、40とか50になったときどうするつもりなの? 聞かせてくれる?」

タナカ
「いや、さすがに……40になる頃には、たぶん、そこそこ有名に……」


「それ、23のときも言ってたんじゃないの? 30になる頃にはそこそこ有名になってるだろうって」

タナカ
「……」

ユミ
「お母さん、さっきからヒロくんに対して……」


「あなたにも言ってるのよ」

ユミ
「え?」


「あなたはどうするつもりなの? どう考えてるの、2人の将来について?」

ユミ
「それは……」


「言いなさい」

ユミ
「私は……」


「母さん!」


「はい」


(イチ押しのポーズで)「どう?」


(ウィンク)「今夜はもっとワイルドに」


「ワォ……」


父、ビキニを外し、手ブラに。



「タナカさん」

タナカ
「はい……」


「私が古い人間だからかもしれないけどね、結婚っていうのは、あなたが思っている以上に重要な出来事なの」

タナカ
「はい……わかっているつもりです……」


「本当にわかってる? 結婚するっていうのは、家族になるっていうことなのよ? 家族になるっていうことは、自分以外の人の命に責任を持つってことなのよ?」

タナカ
「……」


「何でユミと結婚したいと思ったの?」

タナカ
「……それは、その……」


「ユミは?」

ユミ
「……付き合ってだいぶ経つし……そろそろいいかなって……」


「……あなた、そんな理由で、この人と結婚するつもりだったの?」

ユミ
「何が?」


「呆れたわ」

ユミ
「は?」


「あなた、結婚がどういうものか……」

ユミ
「ていうか、お母さんたちの頃ともう時代が違うんだから、結婚をそんな深刻に考えてる方が変だよ」


「……それ本気で言ってるの?」

ユミ
「だって変だもん」

タナカ
「いや、あの、僕は……」


「僕は、何?」

タナカ
「あ、いや、一応、結婚は重要なものだって……」


「一応?」

タナカ
「いや、あの」

ユミ
「お母さんが何に怒ってるのかわかんない」


「じゃあ話すことは何もないわ」

ユミ
「ちょっと待ってよ」

タナカ
「あの、え、僕はどうしたらお許しをいただけるんでしょうか」


「31にもなってそんなこともわからない男が、娘を幸せにできるか!」

ユミ
「もう、何……」

タナカ
「何か、すみません」


「謝られてもしょうがないわ」


「お前たち!」


全員が一斉に父の方を向く。



「もっと見てよ」


「はい」

ユミ
「はい」

タナカ
「はい」


「どう?」


(ウィンク)「淫らな獣が牙を剥く」


(ニヤリ)「責めるねぇ……」


父、部屋から出ていく。


ユミ
「夢を追うのがそんなにダメなことなの?」


「そんなことは言ってないわよ」

ユミ
「言ってるよ」


「もういいから、今日は帰って、もう一度考え直してから来なさい」

ユミ
「……別に、考え直すこととかないけど」


「いいから」

ユミ
「でも」


「いいから! ……私も頭を冷やすわ」

ユミ
(タナカに)「……行こ」

タナカ
「あ、じゃあ、あの……まぁ、また来ます。お邪魔しました」


ふてくされたユミと困惑した顔のタナカが、部屋から出ていく。
一人テーブルに肘をつき、頭を抱える母。
かすかにすすり泣いている。

父が静かに戻ってくる。
薄手のTシャツを着て、手にはポップなカラーの水鉄砲。
そっと母の肩に手を置き、



「母さん……」


顔を上げた母に水鉄砲を手渡す。
母、黙って立ち上がり、無防備な感じで逃げ回る父に水をかける。
ある程度服が透けたところで、



「どう?」


(うつむきかけてふっと顔を上げ、とびっきりの笑顔で)「幸せ!」


母、水鉄砲を撃ちまくる。


<了>

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空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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