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文芸サークル「鉄人四迷」のページ

文芸サークル「鉄人四迷」のページです。 オリジナルの小説・詩・脚本を発表しています。

禁(六井象)

観光名所の寺院の入り口で、俺だけ止められた。

「あなたは近いうちに人殺しになるから、ここには入らないでください」
 ツアーガイドは顔を引きつらせて、坊さんの言葉をそう訳した。

 俺は黙って、地元の不味い煙草を吸いながら、みんなの帰りを待っていた。
 近いうち。今日なのか、明日なのか。そんなことを考えていた。

 やがて寺院から低く、分厚い歌声が響いてきた。
 なぜか足の親指がむずむずした。

 野良犬が何匹も俺の前を横切っていった。
 みんな痩せていた。

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しおりひも(六井象)

いい本だった……とおもわずつぶやくと、本のしおりひもがまるで犬のしっぽみたいにじゃれてきた、いなかの図書館のよく陽のあたる席でのことだ、背表紙をなでてやるとペラペラと心地よい音をたててページがめくれた、借りて帰ろうと思ったが、よく見ると「貸出禁止」のスタンプがおされている、そういえば、こんなにいい本なのに、目立たない隅の棚の隅の場所にしまわれていたな、首をかしげていると、すぐ近くを通りかかった司書さんが「甘やかすとはしゃいで乱丁しちゃうんですよ」とそっと教えてくれた、なるほどそれなら仕方ない、なごりおしい気持ちで本を暗い棚の中へ戻す、しおりひもが指にからみつき、恋人とベッドの中で手をつないでいる時のように甘えてくる、ため息とともに司書さんがしおりひもを私の指からひき剥がしてくれる、図書館を出ると、いつの間にか夕方になっていた、いい本だった……と誰に言うでもなくつぶやいてみた。

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実家暮らし(六井象)

朝起きると、時計の針が100時100分を指していた。カーテンを開けると、極彩色の空を、巨大な母の生首がぎらぎら照らしていた。あの様子だと、まだ朝食は出来ていないだろう。もう一眠りしようっと。

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酔い(六井象)

テーブルの上にうっかり酒をこぼした。愛用しているペンが酒びたしになり、ペンはすっかり酔っぱらってしまった。ふらふらとテーブルの上を這い回り、メモ帳を見つけると、「俺の前世は船乗りだったんだ」と筆談で伝えてきた。なるほど、それで、「海」という字を書いた時だけ、やけにインクが濃く出るのか。酩酊したペンはそれっきり何も言わず、ほんのり全身を赤くして寝てしまった。翌日は二日酔いのためか、字が何となくボキボキしているのが可笑しかった。今度海へ行く用事があったら、こいつをシャツの胸ポケットにさしていってやろうと思う。

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足(六井象)

ベッドにいるのはわたしひとりだが、ふとんからはみだしている足は五本も六本もある。足をうごかしてみるとぜんぶ同時にうごくから、どれがわたしの足なのかわからないが、どの足もつやつやの爪が生えていたり、たくましい血管がうきでたりしているので、どれがわたしの足でもかまわないと思った。足をうねうねうごかしてタコの気分をあじわっていると、腹をすかせた飼い犬が部屋にはいってきて、飯をくれとせがむので、足のほうを見るようにうながし、うねうねうごかしてやったら、目を丸くしておどろいていた。かわいい。

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葡萄(六井 象)

 旅行へ出かけ、小さな旅館に泊まった。女将に案内された部屋は、狭いが海のよく見える窓があって、風呂上がりにあそこでビールでも呑んだら旨そうだ、なんてことを思ったが、古い畳の上を歩くたびに足の裏に小さな砂粒みたいなものがくっついてくるのが気になった。女将と話をしながらさりげなく何がくっついているのか確かめようとするのだが、そのたびに足が攣りそうになってどうにもままならない。一度気になると女将と喋っていても上の空になってしまう。申し訳ないとは思いつつも、夕食のメニューについて何か説明している女将に早く出ていってくれと告げようとした時、その砂粒みたいなものが足の裏から一斉に足首の方へ移動してきたような感覚が伝わってきて、思わず悲鳴を上げると、女将はちょっと驚いた後に笑いながら、「早く言ってくださればいいのに」と部屋の電話の受話器を取り、何か聞き取れない言葉でやりとりを始めた。気が気じゃなくて、足下へ視線を落とそうとすると、女将が「見ちゃ駄目」といって私の目を柔らかい掌で覆ってしまう。女将の掌は何かお菓子のような匂いがした。女将が電話を切ると、すぐに仲居がやってきて、私の前へ猪口を差し出した。猪口には香りのよい酒が注がれていた。
 女将が「厄払い、厄払い」と言いながら猪口を傾ける仕草をするので、それを飲んだ途端、足にくっついていた何かがさあっと離れ、畳の上を這い回っているような音が聞こえてきた。すぐに足元を見てみたが、何もいなかった。「すいませんね、お騒がせして」と言いながら、女将が畳をドンドン、と二回強く踏んだら、テレビがガタガタと揺れたので、そっちの方へ逃げたらしいということがわかった。「今のは何なんですか」と訊くと、女将に目配せされた仲居が、テレビのスイッチを入れた。ワイドショーが流れていて、見慣れた司会者や芸能人の顔が、ことごとく、潰れた葡萄のようになっていた。背後で仲居がくっ、くっと笑い声を漏らし、女将がその肩を軽く叩いたのがわかった。

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テクニック(六井 象)

むかし時計屋さんがあった空き地に、野生の砂時計が生えていた。まだ形もいびつで、砂も詰まりすぎているが、珍しいので一つ摘んで家で育てることにした。二ヶ月くらい経ち、立派な砂時計に生長した。が、時間を計ってみたら3分12秒という半端な数字だったので、カップラーメンを作る時は、時計をひっくり返してからちょっと待ってお湯を入れる、というテクニックで乗り切っている。

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むだい(六井 象)

あたま が おもい おもい で おもい
いいこと ないか ないから ないた
おもいで もいで といれ に すてて
いいこと ないな ないから ないた

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自由律俳句 百首(2012-2016詠)(六井象)


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「冬子」(六井 象)


 近所に住んでいた幼馴染の女の子は生まれた時から難しい病気で、それは足の方から肉が少しずつ剥がれ、その一枚一枚が蝶になって飛んでいってしまうというものだった。はじめのうちは二人とも、青白い顔の彼女の親や医者を横目に、その幻想的な光景を面白がっていたが、ある日私はそのことで父に叱られ、それから彼女を特別なものとして見てしまうようになった。
 小学校に上がると私には友達が増え、彼女と遊ぶ回数は減っていった。彼女の家は通学路の途中にあったから、寄ろうと思えばいつでも寄れたのだが、大人たちは彼女をとてもとても慎重に扱っていたので、彼女の家にいる間じゅう私はその監視の下に置かれ、とても窮屈な思いをさせられたので、新しくできた友達に彼女を紹介したりすることも何だかためらわれた。そのころには彼女は腰の辺りまで肉が剥がれてしまっていて、家の前を通ると時々、彼女の部屋の小さな窓から蝶がひらひらと飛び出してくるのを見て、私は何となくもやもやした気分になった。
 それでも彼女は唯一の友人である私に、しょっちゅう電話をよこしたが、学校にも行けず、一日じゅうテレビばかり観ていたので、彼女の話す内容はどうしても子供っぽくて、私は彼女と話すのが退屈で仕方なかった。中学校三年のある日、受験勉強をしていた私のところへ彼女から電話がかかってきて、当たり障りのない世間話のあと、ふいに彼女が「そういえば最近化粧の勉強をしている」と言ったので、もっと他に学ぶことがあるだろうと言うと、彼女は大笑いした。本当は、誰にも見せるあてがないのにそんなことしてどうするんだ、と思ったが、黙っていた。
 高校に上がる頃には通学路が変わり、彼女の家の前も通らなくなっていて、電話のやりとりもいつの間にかなくなった。時折人づてに聞く話では、彼女は私にずっと会いたがっているらしく、そういうことを耳にするたびに私は、色々なことを理由に彼女を避けている自分に負い目を感じたりもした。もはや彼女の体がどれほど病に侵されているかを知る勇気もないまま、年を経るごとに私には友達が増えて、ふとした拍子に恋人まで出来、そして彼らはみな楽しくて気の良い連中だったが、しかしもやもやした気分はいつも心の隅にこびりついて離れなかった。



 ある冬の晩、自分の部屋で音楽を聴いていると、窓の外をちらちらと光るものが飛んでいるのが見えた。よく見るとそれは一匹の蝶だった。彼女に違いないと直感した。慌てて窓を開けると、蝶はまっすぐ私の胸に飛び込んできて、何か言いたげに瞳をきょろきょろ動かしたあと、あっけなく息絶えた。その白い双羽には、子供っぽい、ピンク色の口紅の跡がついていた。

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当サイトについて

文芸サークル「鉄人四迷」の作品を公開しています。
小説・詩・脚本を中心に、月ごとのテーマ読み物など随時更新中。
それぞれ違うタイプの作家たちによる、バラエティ豊かな作品をお楽しみください。(作者紹介はこちら。
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作者紹介

空疎

あなたはただのゼリーです
見える光は全部嘘
聞える音は全部嘘
あなたはただの
ふるえるゼリー
ひとりふるえる
ただのゼリー

中編小説「ゼリーの見た夢」より


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六井 象/I

 失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。
 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。


短編小説「鋏」より

個人サイト

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小石薫

美代子は必死だ。一生懸命に声を張り上げて、誰かが、聞いて、興味を持って、自分のいる教室のドアを開けてくれることを、ずっと待っている。
 伝えたいことがあると言った。
 私には、あるだろうか。伝えたいもの。伝えたい気持ち。私の中にあるのは、ぬるく、濡れそぼった、この、寂しさだけ。

短編小説「夕焼け校舎」より


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金魚風船


「私の事、好き?」


「え?」


「ごめん、いきなり」


「ごっつ好きやで」


「ほんとに?」


「当たり前やろ、俺のたった一人の娘なんやから」


「そっか」


間。



「やっぱ、別のことしよっか」


「え? なんで? 凄い楽しいのに」


「じゃあ、もっと楽しそうにやれよ。そんな下ばっかり見とったらな、楽しい事も嬉しいことも、いつの間にか全部通り過ぎてしまうぞ」

短編脚本「お父さん」より

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